揺らぐ鋼鉄の瞳【1】
静寂を裂くように、瓦礫の街に風が吹き抜けた。
銃口を向け合う悠真とアーク。
だが、互いに次の一撃を放つことなく、時間だけが重苦しく流れていく。
「……アーク。お前、まだ俺のこと分かってんだろ」
悠真は声を震わせながら、必死に呼びかけた。
かつて遊んだ記憶、笑った声、交わした約束。
それを信じたい一心だった。
だがアークは、答えない。
赤い瞳がわずかに瞬き、迷うように揺らぐ。
――まるで何かを思い出そうとするかのように。
その瞬間、悠真の通信機から鋭い声が響いた。
「撃て! 対象は人類の敵だ! 躊躇うな、悠真!」
軍の指揮官の怒声。
だが、その声にはどこか冷たい作為があった。
悠真は気づかぬまま――それが“裏切り者”の指示であることを。
「……俺に撃てって、簡単に言うなよ……。こいつは……」
悠真は引き金に指をかけるが、指先が止まる。
勘が告げていた。――撃ってはいけない、と。
アークの瞳が一瞬、赤から青に揺らめく。
そのわずかな変化に悠真の胸が高鳴る。
「やっぱり……お前、まだ……」
だが次の瞬間、鋭い電子音がアークの体から響いた。
強制制御プログラム。
裏切り者の遠隔操作が走り、アークの身体が硬直する。
赤い光が戻る。銃口が、ゆっくりと悠真に向け直された。
「……ッ!」
撃たれる――!
悠真の直感が叫び、身体が勝手に飛び退く。
背後の壁が粉々に砕け、破片が雨のように降り注いだ。
胸を押さえ、荒い息を吐く。
アークの瞳を見れば、そこには確かに迷いが宿っていた。
だがその迷いは、冷たい命令に塗りつぶされていく。
「……アーク。お前、誰と戦ってんだよ」
悠真の声は、砕けた瓦礫の街に虚しく響くだけだった。




