再会する影【1】
瓦礫に覆われた街路を、悠真はライフルを構えたまま息を潜めていた。
仲間の兵士たちは散り散りに逃げ、もはや背後に人の気配はない。
耳に届くのは、機械の駆動音と、鉄を擦るような重低音だけだった。
煙の向こうから現れた影。
二メートルを超える鋼鉄の体躯に、赤い双眼。
その姿を見た瞬間、悠真の喉が凍りつく。
「……アーク……本当に……お前なのか」
幼い日の記憶が脳裏をよぎる。
教室の裏庭で、錆びた身体のアークとキャッチボールをした。
笑い声をあげながら、くだらない話をした。
あのときの声、あのときの仕草――全部、ここに立つ鋼鉄の影に重なる。
だが今、赤い瞳は人を見てはいない。
悠真を「敵」として捕捉し、銃口をゆっくりと持ち上げている。
「……やめろ、アーク。撃つな……!」
返事はなかった。
ただ、無機質な電子音が空気を裂く。
そして――火花が弾け、弾丸が発射された。
咄嗟に身を転がし、悠真は瓦礫の影に飛び込む。
耳のすぐ横で石が砕け、破片が頬をかすめた。
心臓が跳ねる。だが恐怖よりも先に、直感が告げていた。
――違う。今のは、本気で狙った弾じゃない。
狙えば確実に殺せたはずだ。
だがアークの弾丸は、ほんの数センチ外れていた。
「……アーク……まだ……俺を、覚えてるのか……?」
握るライフルが震える。
引き金を引けば、友を撃つことになる。
撃たなければ、仲間を守れない。
悠真は歯を食いしばりながら、赤い瞳を見つめ返した。
その奥に、かつての“友達”が眠っているのか。
それとも、もう完全に“兵器”なのか。
煙の中で、ふたりの影だけが向かい合っていた。




