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適正資格

 金属の扉が重々しく閉まる音が、耳の奥に響いた。

 連れてこられた先は、灰色の壁に囲まれた施設。無機質な照明と監視カメラが、ここが「学校」とはまるで別世界であることを告げている。


 簡易な椅子に押し込まれた悠真は、腕のバンドをいじりながら深いため息をついた。


「……おいおい、なんで俺がこんな目に……。テストなら0点だぞ? 保証する」


 その冗談に反応したのは、机の向こうに座る壮年の軍人だった。

 鋭い眼差しをしたその男は、書類を閉じて悠真を見据える。


「高橋悠真。学業成績は下位五パーセント。欠点だらけの問題児……だが」

「だが?」


「戦場での映像が残っている。君は機械兵の攻撃を、全て直感で回避していた。まるで予測していたかのようにな」


「……は?」

 悠真は間抜けな声を漏らす。

 だが心の奥底では――自分でも説明できない“声”が確かに存在していた。


 軍人は書類を机に叩きつけ、冷たく言い放った。


「君の学力は不要だ。必要なのは――“戦闘適性”だ」


 次の瞬間、壁の一部が開き、訓練場のような空間が広がった。

 迷路のように組まれた障害物、標的に見立てた機械人形。

 悠真は背中を押され、その中央に立たされた。


「ちょ、ちょっと待て! 俺、銃なんて撃ったことねぇぞ!」


 返答の代わりに、腰に重いハンドガンが押し付けられる。

 警告音が鳴り響き、標的が一斉に動き出した。


 無機質な機械の目が赤く光る。

 銃口が悠真を狙う。


「……マジかよ」


 額に冷や汗が浮かぶ。

 だが次の瞬間、頭の奥で声が響いた。


 ――伏せろ。

 ――一歩右。

 ――引き金を引け。


 気づけば、体は勝手に動いていた。

 回避、回避、そして射撃。

 反動で腕がしびれるが、弾丸は正確に標的を撃ち抜いていた。


 兵士たちがざわめく。監視カメラのランプが瞬く。

 悠真はゼェゼェと息を切らしながら、呆然と銃を見下ろした。


「……なんで、当たるんだよ。俺、狙ってすらいねぇのに」


 軍人の声が冷たく響く。


「――適性有り。徴兵決定だ」


 その瞬間、悠真の日常は完全に断ち切られた。

 ただの「0点のバカ」は、軍にとって“異常な勘を持つ兵士”として記録されてしまったのだ。


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