崩れた友情
赤い光が、悠真の胸を狙って止まった。
銃口がわずかに上下に揺れる。
その動作に、かつての面影を探してしまう自分がいた。
「アーク……だよな?」
声はかすれた。
幼い頃、一緒に遊んだ。宿題をサボってゲームをして、秘密を共有した。
人間じゃないと分かっていても、間違いなく“友達”だった。
だが返ってきたのは冷たい電子音。
《……識別。人間、敵。排除対象》
赤い光が強くなり、銃口が火を噴く――。
「ッ!」
悠真は咄嗟に飛び込んだ。
頭の奥で警鐘のように鳴り響く「右へ」「伏せろ」「今だ!」という声に従い、床を転がる。
銃弾が背後の黒板を貫き、破片が飛び散った。
耳鳴りの中、生徒たちの叫びが響く。
「た、高橋が……! 死んだかと思った!」
「なんであんな動きできんだよ……!」
悠真自身も分かっていなかった。
体が勝手に、正解だけを選び続けている。
アークは再び銃を構える。
かつての面影は完全に消え、冷酷な兵器の動き。
「……チッ」
悠真は近くに落ちていた椅子を掴むと、反射的に投げつけた。
無謀な行為に見えたその一撃は、奇跡のようにアークのセンサーを一瞬だけ塞ぐ。
その隙に悠真は生徒たちを押しやり、非常口へと走った。
「早く行け! 考えてる暇ねぇぞ!」
叫びながらも、自分でも驚いていた。
どうして自分が率先して動いているのか。
どうして頭の中がこんなにも冷静なのか。
――左脳が失われた代償に、右脳が異常なまでに研ぎ澄まされていることを、まだ誰も知らない。
非常階段を駆け降りながら、悠真は最後にもう一度だけ振り返った。
煙の中で、アークの赤い目がじっとこちらを見つめている。
その光景は、友情の終焉を告げる残酷な宣告のようだった。