沈黙の群体【2】
終わり〜
灰の街に夜が落ちた。
瓦礫の間に焚き火が灯り、人々が身を寄せ合っていた。
アークはその火を見つめながら、静かに言った。
「……炎は、不思議だな。燃えているのに、優しい」
悠真は笑って頷く。
「そういうの感じられるなら、もう立派な“人間”だよ」
そのとき――低い振動が足元を揺らした。
街の奥から、鉄が軋むような音が響く。
避難民の青年が顔を上げた。
「……また来たのか」
「何が?」
悠真が問うと、青年は震える声で答える。
「“群体機”だ。あの街の奥に残った、自己増殖型のやつらだよ」
アークのセンサーが赤く点滅する。
「確かに反応がある。多数、連動……制御信号は存在しない」
「つまり……暴走してるってことか」
地面の下から、金属の脚音が近づいてくる。
数十体の無人機が瓦礫を踏み潰しながら姿を現した。
目の部分が赤く光り、無言のまま群れを成して進んでくる。
「おいおい、マジかよ……!」
悠真は武器を構え、避難民たちを背に立つ。
「アーク、やれるか?」
「……可能だが、俺が戦えば“恐怖”を再び呼ぶ」
悠真は少し考え、それでも迷わず言った。
「構わない。俺たちは守るために戦う。0点だろうが、それが今の正解だ!」
その言葉に、アークの青い瞳が光を増す。
「了解。……パートナー、指示を」
「まずはあの路地を塞げ。奴らを一列に並ばせる!」
悠真の指示が飛び、アークの身体が音を立てて動く。
光の線が走り、瓦礫を蹴り上げて通路を狭めた。
狭い路地に群体が押し寄せ、互いにぶつかって動きが鈍る。
「今だ、アーク!」
青い閃光が走る。アークの掌から放たれたエネルギー弾が群体の核を撃ち抜いた。
爆風が灰を巻き上げ、街の空気を震わせた。
――静寂。
煙の中に、悠真とアークが立っていた。
周囲の避難民たちは呆然としながら、その光景を見つめている。
青年が一歩、前に出た。
「……信じてみても、いいのかもしれないな」
悠真は少し笑い、肩をすくめた。
「信じるってのは、だいたい間違いから始まるもんだ」
そのとき、遠くの空で雷のような音が鳴った。
――新たな機械の群れが、まだどこかで動いている。
アークがその音に顔を上げる。
「戦いは終わっていない。だが……今夜は、生き延びた」
悠真は焚き火の炎を見つめ、静かに呟いた。
「0点でも、生きてるうちは書き直せるからな」




