灰の街で【2】
朝日が差し込みはじめた頃、悠真とアークは“灰の街”にたどり着いた。
かつては工業都市として栄えていたその街も、今は煙と錆に覆われた廃墟。
風が吹くたび、崩れた建物の窓が音を立てた。
「ここ……人の気配がする」
アークがセンサーを光らせて言う。
「まさか、生き残りが?」
悠真は慎重に足を進めた。
路地の奥で、何かが動いた。
銃口が向けられ、悠真は思わず両手を上げる。
「待ってくれ! 撃たないで!」
影の中から現れたのは、やせた青年と、数人の避難民たちだった。
彼らの目は、疲れ切っていた。
「……あんたら、軍のやつか?」
「違う。俺たちは……逃げてきたんだ」
その言葉に、青年は眉をひそめた。
だがアークの姿を見た瞬間、周囲の空気が一変する。
「ロボットだッ!」
誰かが叫び、銃を構える。
アークは一歩も動かず、静かに言った。
「撃ってもいい。だが、俺は誰も殺さない」
その声には、どこか人間的な震えがあった。
悠真は前に出て言う。
「こいつは敵じゃない。俺の命を何度も救ってくれた!」
青年は銃を下げずに問う。
「……それを信じろってのか? あいつらに家族を奪われた俺たちに?」
悠真は、答えられなかった。
重い沈黙が、壊れた街の空気をさらに重くする。
そのとき、アークが自分の胸の装甲を開いた。
内部の機構が露出し、青い光が脈動している。
「……この“記録”を見てほしい」
ホログラムが浮かび上がる。
そこには、戦場で仲間を守ろうとするアークの姿。
そして――彼に撃たれたロボットを庇う悠真の映像。
それを見た避難民たちの表情が、少しずつ変わっていった。
「……お前たち、何者なんだ?」
青年の声が震える。
悠真は短く答えた。
「ただの、0点コンビさ」
沈黙のあと、青年は銃を下ろした。
そして呟いた。
「……変わり者同士、悪くねぇ」
灰の風が吹き抜ける。
その中で、わずかな信頼の火が灯った。




