解体命令【2】
夜明け前、基地のサイレンが低く鳴り響いた。
悠真は仮設の寝台から飛び起き、廊下を駆け抜ける。
嫌な予感が、胸の奥を刺すように疼いた。
――アークがいる隔離区画。
警備兵たちが慌ただしく出入りしている。
「何が起きてるんですか!?」
「命令だ。あの機械は危険と判断された。今から解体処理に入る」
悠真の思考が、一瞬止まった。
次の瞬間、体が勝手に動いた。
「ふざけんな……!」
兵士を突き飛ばし、制御室の扉に手をかける。
指紋認証が弾かれるが、怒りと焦りが理性を焼き切った。
足で蹴破るようにして中に飛び込む。
アークは固定台に縛られ、動かない。
胸部の装甲が開かれ、冷たい工具が突き立てられようとしていた。
「やめろッ!!」
悠真の叫びが響く。
作業員が振り返り、銃を構える。
しかし、その視線の先でアークの青い瞳が、わずかに光を取り戻した。
「……悠真」
かすれた声が聞こえた。
「もう、いい。お前は逃げろ。俺は――」
「ふざけるな! また勝手に“終わらせる”つもりかよ!?」
悠真は工具を掴み、拘束具を外そうとした。
火花が散り、金属が軋む音が部屋を満たす。
その瞬間、綾部少佐が入ってきた。
「悠真、やめろ! それ以上は――」
「少佐、あんたは言ったよな。
“感情はプログラムかもしれん”って。
……じゃあ見ろよ、こいつの目を!」
アークの瞳は、涙にも似た光を湛えていた。
それは、確かに“生きたい”と訴えていた。
綾部は拳を握り、沈黙する。
数秒ののち、低く命じた。
「……解体を中止しろ」
作業員たちが驚愕の声を上げる中、悠真は肩を落とした。
安堵と、かすかな勝利の息が漏れる。
「……ありがとう、少佐」
綾部は答えず、背を向けて言った。
「感情は、計算できん……厄介だな」
その言葉が、不思議な温度を持って部屋に残った。




