審問室の光【2】
悠真は、白く無機質な部屋に座っていた。
背後のドアは重く閉ざされ、壁には監視カメラの赤いランプが点灯している。
机の向こう側には、灰色の軍服を着た男が一人。
「綾部少佐」と名札に刻まれていた。
「君の報告は聞いた。だがな――」
綾部は書類を机に叩きつけるように置いた。
「“機械と共存”など、理屈では済まない。あれは命令を無視し、基地へ侵入したのだ」
悠真は拳を握る。
「命令を無視したのは俺だ。アークは……俺を守っただけだ」
沈黙。
その静けさの中で、低く機械音が響く。
部屋の隅――分厚い防弾ガラスの向こうに、アークが座っていた。
鎖で拘束され、光学センサーだけがこちらを見つめている。
綾部は視線を向けることなく言った。
「君は彼に“感情がある”と言ったな。だがそれは、プログラムされた反応かもしれん」
悠真は息を呑む。
頭では分かっている。そう言われるのは当然だ。
だが――胸の奥が、ひどくざわめいた。
「じゃあ聞きますけど、少佐。感情が“ある”って、誰が決めるんです?」
「……何?」
「笑ったり、怒ったり、悲しんだり。それが全部“反応”だって言うなら、俺たち人間も同じじゃないですか」
綾部は眉をひそめ、口を閉ざす。
悠真は立ち上がり、ガラス越しにアークを見る。
「アーク。お前は……まだ信じてるか? 人間を」
アークの青い瞳が、ゆっくりと光を増す。
そして、かすかにうなずいた。
悠真は笑った。
「なら、俺が証明してやる。人間もまだ……やり直せるって」
綾部の瞳が、わずかに揺れた。
冷たい部屋に、ほんの少しだけ“光”が差したように感じた。




