人間たちの壁【2】
ヘリの風圧が、焦げた瓦礫を巻き上げた。
悠真はアークの前に立ち、腕を広げて迎え撃つ。
機銃の銃口がこちらを向いている。
それでも、一歩も引かなかった。
「撃つなッ! こいつはもう敵じゃない!」
無線越しに響いた声が、悠真の叫びを押し潰した。
「識別反応レッド。未登録の機械は殲滅対象だ」
機銃が火を噴く。
瞬間、アークが悠真を庇って前に出た。
火花が飛び、鋼の身体に穴が空く。
「やめろッ! こいつは俺の――友達だ!」
悠真の叫びは必死だった。
だが銃火は止まらない。
仲間の兵士たちは、誰も信じようとしなかった。
アークはふらつきながらも悠真の肩に手を置いた。
「……いいんだ。俺は壊れてもいい。お前が、人間たちに伝えろ」
「ふざけんな……そんなの、認めねぇよ……」
悠真は自分の胸を叩き、マイクを握った。
「司令部、聞こえるか? 俺は人間だ。けど、今この瞬間こいつが俺を救った。
それでも“敵”だって言うのか?!」
通信の向こうで、沈黙が続く。
そして短く、硬い声が返ってきた。
「……帰還を許可する。だが機械の持ち込みは禁止だ」
「……」
悠真はしばらく言葉を失ったが、やがて苦笑を浮かべた。
「0点だな、俺たちの初交渉は」
アークが静かに笑ったように見えた。
青い瞳が揺れ、風の中で小さく光る。
その光は、確かに“人”のものだった。




