0点の男
答案用紙は、今日も真っ白だった。
赤ペンで書かれた大きな「0」の数字。
教卓に置かれた紙を手に取った瞬間、クラスのざわめきが小さく広がる。
「うわ、またかよ……」
「今月、何回目?」
「バカの安定感ってすごいな」
笑い混じりの声が背後で飛ぶ。
高橋悠真は苦笑いを浮かべながら、自分の答案をひらひらと掲げた。
「安心しろ。俺は期待を裏切らない男だ」
真剣に言ったつもりだったが、教室はさらに笑いに包まれる。
教師は呆れ顔でため息をつき、悠真の答案を回収すると次の課題へ進んだ。
彼は本当に「ただのバカ」だった。
少なくとも、誰の目にもそう映っていた。
成績は学年最下位。計算は指を使っても間違える。
将来の夢を問われても「なんとかなるっしょ」と答えて、周囲をまた呆れさせる。
――だが。
その日常は、突然、音を立てて崩れ落ちた。
午後の授業。窓の外に、不自然な黒煙が立ちのぼった。
グラウンドの隅から、地響きのような振動が校舎に伝わってくる。
生徒たちが一斉に窓際へ押し寄せ、そして悲鳴を上げた。
「な、なんだあれ……!」
「嘘だろ……ロボット……軍用機……?」
グラウンドを埋め尽くす鉄の群れ。
無機質な赤い光を瞳のように灯し、整然とした足並みで校舎へ向かってくる。
空気が一瞬で凍りつき、次の瞬間には窓ガラスが破壊され、轟音とともに破片が飛び散った。
「きゃああああああああ!」
教室は阿鼻叫喚に包まれた。生徒たちは泣き叫び、出口へ殺到する。
悠真は――机の下に潜り込んだ。
反射的に。考えるより先に。
ちょうどその瞬間、天井が砕け落ち、瓦礫が彼の席を粉砕した。
「……は?」
呆然と瓦礫を見上げる。
ほんの数秒の差で、自分は押し潰されていた。
胸が妙に冷静だった。心臓は跳ねているのに、頭の奥で「次は右だ」と声がする。
言われるがまま廊下へ飛び出すと、飛んできた銃弾が彼の左耳をかすめて壁を抉った。
汗が背中を伝う。
だが、口から出たのは呑気な一言だった。
「……なんか、俺、生き残れそうじゃね?」
混乱の中、悠真だけが妙に滑らかに、死の間際をすり抜けていった。
誰も気づいていない。
彼の頭の「半分」が、すでに失われていることに。
そして残された半分が、戦場の直感を異常に研ぎ澄ませていたことに――。
新しい作品を描きました〜 ジャンルはわかんなかったのでsfにしました〜是非是非感想も書いてっていってください〜