第三章 純真な心
私は彼の息子アルトゥールに近づいた。
二十三歳の純粋で傷つきやすい青年。タリン大学で海洋学を学ぶ彼は、父親の帝国に背を向け、海の生態系保護に心を傾けていた。ラウルと同じように。
アルトゥールは父親とは正反対だった。長身で線が細く、知的な眼鏡をかけている。彼の瞳には海の色があった——深いバルト海の青。そして何より、彼には父親にない優しさがあった。
私が初めて彼に話しかけたのは、タリン大学の海洋研究所だった。私は環境保護団体のライターという偽の身分で、バルト海の汚染問題について取材するという口実を使った。
「バルト海は閉鎖性海域なんです」彼は熱心に説明してくれた。研究室の窓からは、タリン湾の美しい景色が見えていた。「外洋との海水交換が少ないため、一度汚染されると浄化に非常に長い時間がかかります」
彼は父親の海運事業が海洋環境に与える影響を深く憂慮していた。だが同時に、家族への愛情から直接的な批判は避けていた。その複雑な心境が、彼の表情に陰りを落としていた。
「君の瞳には海の色がある」私は彼に囁いた。タリン湾を見下ろすカフェで。中世の城壁の向こうに現代的な港湾施設が広がっている光景を眺めながら。「深く、美しく、そして悲しい」
彼は頬を赤らめた。この純粋な青年にとって、年上の美しい女性からの言葉は強い衝撃だったのだろう。
私は彼を誘惑し、恋に落とした。罪悪感に苛まれながらも、私は続けた。彼との時間は、復讐という目的を一時的に忘れさせてくれるほど甘美だった。彼の純粋な愛情は、私の心の奥底に眠っていた人間性を呼び覚ました。
私たちはタリンの美しい場所を訪れた。トームペアの丘、アレクサンドル・ネフスキー大聖堂、そして旧市街の隠れた小径。彼は私にエストニアの歴史を語ってくれた。ドイツ騎士団、スウェーデン支配、帝政ロシア時代、そしてソビエト占領——この小さな国が経験してきた激動の歴史を。
「僕たちエストニア人は常に生き延びてきました」彼は言った。「大国に挟まれながらも、独自の文化と言語を守り続けてきたんです」
その言葉は私の心に深く響いた。生き延びること。それは私自身のテーマでもあった。
だが私は彼の純粋さを利用した。そして彼に父親の不正の証拠を探らせたのだ。息子の正義感を利用して。タム・マリタイム社の内部文書へのアクセス権を持つ彼から、重要な情報を聞き出していった。
ある夜、彼は深刻な表情で私に告白した。
「父の会社が、バルト海にタンカーから汚水を不法投棄していました」彼の声は震えていた。「データを改ざんして、政府の検査を逃れているんです」
その瞬間、私はラウルの顔を思い出した。同じように正義感から告発しようとして、命を奪われた男の顔を。
「アルトゥール」私は彼の手を取った。「あなたは勇気ある人よ」
だが心の奥で、私は自分が何をしているかを知っていた。純粋な青年を、危険な道に誘い込んでいるのだと。