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第二章 美の罠

 次に私はタムの美術品コレクションに目をつけた。


 彼はルネサンス期の絵画に異常な執着を示していた。特にレンブラントの作品を愛好し、タリンの旧市街にある彼の私邸には、数億ユーロ相当のコレクションが眠っている。彼の書斎には、レンブラントの「夜警」の習作とされる小品が飾られていた。


 この執着の理由を調べるうち、私は興味深い事実を発見した。タムの祖父オラフ・タムは、第二次大戦中にナチスドイツが略奪した美術品の返還に関わる仕事をしていた。戦後のヨーロッパで、散逸した名画を追跡し、正当な所有者に返す困難な作業だった。


 オラフは誠実な男だったが、息子のアルフレッド——タムの父親は違った。彼は返還すべき作品の一部を密かに保持し、それを売却して海運事業の資金とした。タムの富の一部は、この血塗られた美術品から生まれている。そして彼自身もそれを知っていた。だからこそ、贖罪のように美術品を収集し続けているのだ。


 私は天才的な贋作画家ニコライ・ボルコフに接触した。ロシア系エストニア人の彼は、ソビエト時代から贋作で生計を立てていた老匠だった。七十歳を過ぎた今も、その手の技は衰えていない。


 「レンブラントの筆触を再現するには」とボルコフは私に語った。彼の工房は旧市街の地下にあり、中世の石造りの壁に囲まれていた。「単に技術だけではダメだ。十七世紀の画家が使った顔料、キャンバス、そして何より彼の魂に触れなければならない」


 ボルコフは私に古典技法の秘密を教えてくれた。ラピスラズリから作られるウルトラマリン・ブルー、動物の骨から作る黒色顔料、亜麻仁油と樹脂を混ぜた古典的なメディウム。そして何より重要なのは、時代の重みだった。


 「新しいキャンバスを古く見せるには」彼は続けた。「茶やコーヒーで染め、煙で燻し、特殊な化学薬品で人工的に劣化させる。だが最も大切なのは、絵に宿る精神だ」


 三か月後、完璧な贋作が完成した。レンブラントの「老人の肖像」の忠実な複製。原画よりも美しいと言えるほどの出来栄えだった。そして私はロンドンのクリスティーズで働く古い知人マーガレット・ハワードを買収し、オークション会場で本物と偽物をすり替えさせた。


 マーガレットはモデル時代の私を知っていた。夫の浮気で離婚し、金銭的に困窮していた彼女にとって、私からの五十万ユーロは救いの手だった。人間の弱さと必要は、時として完璧な共犯者を作り出す。


 タムは偽物を掴まされ、国際的なスキャンダルの渦中の人となった。美術界は震撼し、彼の文化的威信は地に落ちた。エストニアの新聞は「デジタル・バイキングが騙された」と書き立てた。彼のプライドは大きく傷つけられた。


 だがそれはまだ序章に過ぎなかった。私の本当の狙いは彼の心そのものだった。


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