第一章 潜入
私は姿を変え名前を変えた。
スイスの名高い美容外科医のメスが私の顔を彫刻した。頬骨を削り、鼻筋を通し、唇の形を微妙に変える。声帯の手術も受けた。低く、ハスキーな声に変えるために。モデル時代の華やかな美貌は、今や計算し尽くされた武器として研ぎ澄まされている。
髪は栗色からプラチナブロンドに染めた。コンタクトレンズで瞳の色も変えた。ラウルが愛した深いブルーから、氷のようなグレーに。鏡に映る私は、もはやマリアナ・ラウルスではなかった。カタリーナ・ヴェーバーという新しい女だった。
六か月間、私は準備に費やした。エストニア語の方言を完璧に習得し、タリンの街の隅々まで調べ上げた。旧市街の石畳一つ一つまで暗記した。ITスキルを徹底的に身につけた。エストニアは世界で最もデジタル化の進んだ国の一つだ。政府も企業も、全てがオンライン上で管理されている。e-Residencyシステムにより、世界中の起業家がエストニアで会社を設立できる。だからこそ、デジタルの盲点を突くことができるのだ。
そしてタムの海運帝国へと潜入した。最初は彼の会社タム・マリタイム社の、しがない秘書として。
タリンの旧市街に聳える彼の本社ビル。十四世紀の城壁を望むこの近代的な要塞は、ガラスと鋼鉄で作られた現代の城だった。建物の設計にはエストニアの伝統的な木造建築の要素が取り入れられ、バルト海沿岸特有の薄いグレーの石材が使われている。この建物自体が、伝統と革新を融合させたタムの野心を象徴していた。
私は私の美貌と知性を武器にした。だが、それだけではない。モデル時代に身につけた多言語能力——フランス語、ドイツ語、ロシア語、そして流暢な英語。さらに独学で習得したデジタル技術。プログラミング、データベース管理、そしてサイバーセキュリティの知識。
エストニアの企業文化は平等主義的だ。階層が少なく、女性の社会進出も進んでいる。だからこそ、有能な秘書が短期間で信頼を勝ち得ることも可能だった。私は効率的に業務をこなし、他の社員たちから一目置かれる存在になった。
男たちは面白いように私の罠に落ちていった。CFOのマルティンは、私の微笑み一つで会社の財務データベースのパスワードを教えてくれた。彼は妻との関係が冷え切っており、若い秘書からの関心に飢えていた。IT部門長のペーターは、私のために違法な監視プログラムまでインストールしてくれた。彼は自分の技術的知識を女性に見せびらかしたがるタイプだった。
私は彼らを手玉に取り、会社の機密情報を一つまた一つと盗み出していく。タムが隠していた脱税の証拠——ルクセンブルクのペーパーカンパニーを通じた複雑な資金洗浄。環境汚染の隠蔽工作——バルト海に垂れ流された重金属による海洋汚染のデータ改ざん。そして競合他社を潰すための卑劣な手段の数々。
バルト海の海運業界は小さな世界だ。フィンランドのヘルシンキ、スウェーデンのストックホルム、ラトビアのリガ、リトアニアのクライペダ——これらの港湾都市を結ぶ航路を支配する者が、この地域の経済を牛耳る。タムはその頂点に君臨していた。
しかし、彼には致命的な弱点があった。美への異常な執着だった。




