第7話 霧見駅への道
霧は記憶を喰らい、時間は影を紡ぐ。
消えゆく景色、残された声。
魂の写し鏡、真実を映し出すか。
■霧見駅への道
霧見駅跡への道は、朝霧に包まれていた。カレンとユウキ、そして都市伝説調査サークルの仲間たち5人が、廃線跡に沿って歩いている。
「ねえ、本当にこんなところに駅があったの?」サークルの副部長、佐藤ミカが不安そうに声をかけてきた。医学部3年生の彼女は、いつもは冷静な性格だが、今日は明らかに緊張している。
「GPSの座標は合ってる。もう少しで到着するはず」カレンはスマートフォンの画面を確認しながら答えた。しかし、GPSの表示が時折大きくズレを示す。まるで空間そのものが歪んでいるかのようだった。
「この霧、気持ち悪いな」工学部2年の木村タケシが、手で霧を払うような仕草をした。
「霧見駅の都市伝説、覚えてる?」文学部2年の山田アヤが語り始めた。「1945年8月15日、終戦の日。霧見駅から出発した列車が、そのまま消えたって話」
「消えた?」経済学部1年の新入部員、小林リョウが聞き返した。
「そう。乗客は全員、復員兵と疎開から戻る家族たち。でも、次の駅には到着しなかった。列車ごと、忽然と消えたの」アヤは手帳を読み上げた。
■サークルの絆
都市伝説調査サークルは、3年前にカレンたちが立ち上げた。最初は3人だけの小さなサークルだったが、今では20人を超えるメンバーがいる。
こんな軽口を叩き合えるのも、これまで危険な目に遭ったことがないからだ。しかし、今日は違った。カレンは仲間たちの様子を見ながら、胸騒ぎを感じていた。彼女の足元に、SIDのレンズが映し出す微かなノイズの「影」が、不吉に揺らめく。
「みんな、今日はいつもと違う。何かあったら、すぐに撤退する。いい?」カレンは立ち止まって振り返った。
「カレンが真面目な顔してる。そんなにヤバいの?」リョウが驚いた。
「分からない。でも、朝から町で変なことが起きてる。記憶喪失とか」メンバーたちの表情が引き締まった。
■廃駅の発見
錆びついた線路は雑草に覆われ、ところどころで土に埋もれていた。昭和初期に廃線となったこの路線は、今では地元の人間でさえその存在を忘れかけている。
霧の向こうに、朽ちた建造物の輪郭が浮かび上がった。「あった……」崩れかけた駅舎が、まるで時間から取り残されたように佇んでいた。
「すごい。完全に廃墟だ」タケシが興奮して写真を撮り始めた。
駅舎の構造は、典型的な昭和初期の地方駅だった。待合室、駅務室、小さな売店の跡。壁には、かろうじて読める古い看板が残る。「『霧見駅』」ミカが錆びた駅名標を指差した。「本当にあったんだ」
ホームには錆びついたベンチが残され、時刻表の看板が風に揺れていた。文字はかすれて読めないが、確かにここが駅だった証だ。
カレンはSIDのドローンを組み立て始めた。「すごい!これがカレンの自慢のやつ?」リョウが感嘆の声を上げた。「まあね。360度カメラで駅全体をスキャンして、3Dマップを作成する。何か異常があれば、すぐに検知できるよ」カレンは得意げにARゴーグルを装着した。