第61話 祭り前夜の家族会議
■祭り前夜の家族会議
祭り前夜、神崎家は家族会議を開いていた。
「今年の参加者は過去最多らしい。200人を超えるそうだ」健司が報告した。
「すごいね」チヨが微笑んだ。「みんな、影を撮りたいんだ」
「問題は。審査員をどうするか」蓮が口を開いた。
伝統的に、審査員は町の長老たちが務めていた。しかし、今年は魂写真館が主催ということで、神崎家からも審査員を出すことになっていた。
「私がやる。夢写機なら、影が写ってるかどうか、正確に判定できる」カレンが名乗り出た。彼女の言葉には、技術への自信と、夢写師としての「光」が宿っていた。
「いいアイデアだ。技術と伝統の融合ね」ルカが賛成した。
「僕も手伝うよ。審査の記録係として」ユウキが言った。
全員の役割が決まった。健司は会場設営の責任者、チヨは参加者の受付、蓮は技術サポート、ルカは写真展示、柊介は学術アドバイザー。
■祭り当日の朝
ついに、影写りの祭りの日が来た。
朝から快晴で、影を撮るには絶好の条件だった。強い日差しが、くっきりとした影を地面に落としている。
「いい天気!これなら、誰かが成功するかも」カレンは空を見上げた。
しかし、ユウキは不安そうな表情を見せた。
「どうしたの?」カレンが尋ねた。
「いや……嫌な予感がするんだ。清爺ちゃんも、時々こんな感覚があったって」ユウキは首を振った。彼の瞳に、来るべき異変への「影」がよぎる。ユウキの予感は的中することになる。しかし、この時はまだ誰も、これから起きる異変を予想していなかった。
■参加者たち
正午、魂写真館の庭に参加者が集まり始めた。
老若男女、様々な人々が、思い思いのカメラを持参していた。最新のデジタルカメラから、年代物のフィルムカメラまで。中には、自作の特殊カメラを持ち込む者もいた。
「すごい装置だな」健司が感心した。
ある参加者は、レンズを10個も付けた奇妙なカメラを持っていた。「多重露光で影を撮る」という理論らしい。
別の参加者は、鏡を組み合わせた装置を準備していた。「影を反射させて撮影する」という発想だった。
「みんな、真剣なんだね」カレンは感心した。
夢写機でモニタリングすると、確かに特殊な現象が起きていた。祭りの熱気に呼応するように、記憶粒子が活性化している。これは、記憶の境界崩壊の「兆候」として、館の記憶システムに負荷をかけ始めていた。
■ユウキの違和感
審査員席で記録を取っていたユウキは、次第に違和感を強めていた。
「カレン。何か変だ」ユウキは小声で言った。
「どうしたの?」
「影が……普通じゃない」
ユウキの指摘通り、参加者たちの影が、微妙に本人とずれ始めていた。まるで、影が独自の意思を持っているかのように。しかし、参加者たちは夢中で気づいていない。むしろ、「これこそ生きた影だ!」と興奮している者もいた。彼らの「影」が、自らの意思を持ち始めているかのようだった。
■柊介の警告
「大変だ!」柊介が測定器を持って走ってきた。
「記憶粒子の濃度が異常上昇している。このままだと、影が実体化する可能性がある」柊介は息を切らせながら説明した。
「実体化?」健司が聞き返した。
「影が物理的な存在になるということだ。つまり、もう一人の自分が現れる」柊介は深刻な表情で続けた。彼の瞳に、科学者としての警告の「光」と、未知への「影」が混じり合う。
全員が顔を見合わせた。それは、予想もしていなかった事態だった。




