第54話 魂写真館への集中とチヨの異変
さらに驚くべきことに、混乱した記憶の流れは、すべて魂写真館に向かって収束していた。まるで、巨大な渦の中心に館があるかのように 。
「なぜ、ここに?」健司が疑問を口にした。
カレンが夢写機で館内をスキャンすると、信じられない光景が映し出された。
館の壁、床、天井、すべてに無数の記憶が蓄積されていた。それは、歴代の夢写師たちが撮影してきた、すべての写真の記憶だった。壁紙の下、床板の隙間、天井裏まで、あらゆる場所に記憶粒子が染み込んでいる 。
まるで館全体が、生きた記憶の塊のようだった。壁が微かに脈動し、床からは見えない何かが立ち上っている。
「魂写真館自体が……巨大な記憶貯蔵装置だった」カレンは息を呑んだ 。それは、魂写真館が単なる建物ではなく、町の「写しの対象」であり、「記憶の継承」の象徴であることを明確に示した。
しかも、その記憶は写真だけではなかった。この館で過ごしたすべての人々の、日常の記憶も蓄積されていた。笑い声、涙、怒り、喜び——すべての感情が、物質化して館に宿っていた。
「私……誰?」突然、チヨが混乱した様子で呟いた。その瞳には、複数の人格が入れ替わり立ち替わり現れていた 。
ある瞬間は5歳の少女、次の瞬間は80歳の老婆、そして見知らぬ人々の人格までもが、チヨの中で渦巻いている。チヨの存在が、複数の「写し損ねた」記憶によって侵食され、自我が危うくなっていた。
「チヨ!」健司が肩を掴んだ。「俺だ、健司だ!」
「健司……さん?」チヨの瞳に一瞬、正気が戻った。「私の中に、たくさんの人が……」
チヨは頭を抱えた。「苦しい……私が私じゃなくなる……」
健司は必死にチヨを抱きしめた。「大丈夫、俺がついてる。君はチヨだ。俺の愛する、チヨだ」彼の言葉と抱擁は、チヨの「影」を払拭し、彼女の存在を安定させる「光」だった 。
でも、チヨの瞳は次々と別人のものに変わっていく。
■地下への扉と初代の記録
「待って」ルカが突然正気を取り戻した。「思い出した。この館の地下に、初代が作った部屋がある」ルカは壁の一部に手を当てた。すると、隠し扉が開いた。そこには、誰も知らなかった地下への階段が続いていた 。
「私も、さっき誰かの記憶を見た。初代夢写師の記憶。地下に、すべての答えがあると」ルカは説明した 。それは、ルカが自身の「語られなかった記憶」にアクセスした瞬間だった。
階段は深く、螺旋状に地下へと続いていた。壁には古い写真が並んでいるが、それらはすべて動いていた。過去の記憶が、生きているかのように再生されている。
「気をつけて」ユウキが護符を構えた。「何があるか分からない」
一行は、慎重に階段を降りていった。カレンとユウキは手を繋いだまま。この危機的状況でも、お互いの存在が心の支えになっていた。彼らの絆は、地下に広がる記憶の「影」に対抗する「光」だった。




