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夢写師カレンと刻の万華鏡  作者: 大西さん
第9章 霧梁工科大学の遺産
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第46話 廃墟への道

錆びた学び舎に、科学の夢は眠る。

時を超え、繋がる知識の系譜。

父の背中に見た、希望の光の残像。


■廃墟への道


早朝5時、一行は影向稲荷へ向かう前に、予定外の寄り道をすることになった。蓮からの提案だった。「影向稲荷に行く前に、霧梁工科大学跡に寄りたい。あそこに、チヨの封印に関する重要なデータが残されているはずだ」蓮は真剣な表情で言った。


車で町の郊外へ向かう道中、蓮は大学について語り始めた。「霧梁工科大学は、1970年に設立された私立大学だった。俺も、そこで時空物理学を専攻していた」蓮は運転しながら説明した。「父さんの母校だったの?」カレンは驚いた。知らなかった父の過去が、次々と明らかになっていく。彼女の瞳に、父の「語られなかった記憶」への好奇心が宿る。


「ああ。そして、チヨの封印を科学的に解析しようとした、最初の場所でもある」蓮は懐かしそうに頷いた。「でも、なぜ廃校に?」ユウキが尋ねた。


蓮の表情が曇った。「1996年、ある実験の失敗で、大きな事故が起きた。それ以来、学生が集まらなくなり、2006年に廃校となった」彼の声には、過去の苦い「写し損ねたもの」への後悔が滲んでいた。


■朽ちた学び舎


大学跡は、想像以上に荒廃していた。正門は錆びつき、「霧梁工科大学」の文字がかろうじて読める程度。構内に入ると、雑草が生い茂り、建物は蔦に覆われていた。「ここが、最先端の研究をしていた場所なんて」カレンは信じられない様子で周囲を見回した。彼女の抱く「科学の光」が、目の前の「廃墟の影」と対比される。


割れた窓ガラス、崩れかけた壁、錆びついた手すり。かつては未来を担う若者たちが学んでいた場所も、今では時間に忘れられた廃墟と化している。


「あそこが理工学部棟。地下に、まだ使えるサーバールームがあるはず」蓮は4階建ての建物を指差した。


建物に近づくと、カレンのSIDが反応した。「微弱だけど、電気信号を検出。20年も放置されてたのに、まだ稼働してる機器がある?」カレンは驚いた。


■地下への侵入


正面玄関は瓦礫で塞がれていたため、蓮は別の入り口を探した。「こっちだ。職員用の通用口がある」蓮は建物の裏手に回った。


錆びた扉を開けると、カビ臭い空気が漂ってきた。懐中電灯の光が、暗い廊下を照らす。「気をつけて。ここも時間の歪みの影響を受けているわ」ルカが警告した。


確かに、建物内部は異様な雰囲気に包まれていた。ある部分は新築のように綺麗なのに、すぐ隣は数十年分の劣化が進んでいる。


地下への階段は、厚い埃と蜘蛛の巣に覆われていた。一段一段、慎重に降りていく。「この先に、かつての研究室がある」蓮の声には、複雑な感情が込められていた。彼の脳裏には、若き日の情熱と、それが挫折した「写し損ねたもの」が去来していた。


階段を降りるにつれ、奇妙な現象が起き始めた。壁の時計が逆回転し、廊下の蛍光灯が明滅を繰り返す。まるで、過去の時間が現在に染み出しているかのようだった。


■1994年の研究チーム


地下2階のサーバールームに到着した。重い鉄扉を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


大量のコンピューターが、まだ稼働していた。当時としては最新鋭だったワークステーションが、20年以上経った今も動いている。画面には、複雑な数式とグラフが表示されている。「これは……初期型のSID?」カレンは息を呑んだ。彼女の夢写師としての「継承」の始まりを象徴する光景だった。


部屋の中央には、見覚えのある装置が置かれていた。現在のSIDより遥かに大型で粗雑だが、基本的な構造は同じだった。「正確には、その原型だ。霊的調査装置。1994年、チヨの封印直後に、有志の研究者たちが集まって開発を始めた」蓮が説明した。


蓮は古いキーボードに向かい、慣れた手つきでコマンドを入力した。すると、画面に当時の研究データが表示された。「時間の裂け目の構造解析。魂の量子化理論、記憶の結晶化プロセス。すべて、私が研究していることの基礎になってる」カレンは画面を食い入るように見つめた。


「そうだ。君の研究は、ここから始まっていた」蓮は頷いた。彼女の瞳に、世代を超えた「継承の光」が灯る。

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