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夢写師カレンと刻の万華鏡  作者: 大西さん
第1章 霧の中の時計の音
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第4話 父の助言

■父の助言


そこへ父の蓮が入ってきた。44歳の蓮は、穏やかな笑みを浮かべながらも、どこか心配そうな表情をしていた。


「おお、ユウキ君か。こんな日に来るとは、勇気があるな」


「蓮さん、この霧は?」ユウキが尋ねた。


「正直、分からん」蓮は窓の外を見ながら答えた。「だが、32年前にも同じようなことがあったと聞いている。その時は、町で大きな事件が」


「事件?」カレンが食いついた。


蓮は少し言いよどんでから、続けた。「詳しくは知らないが、何人かが行方不明になったらしい。その中に、ルカの親戚もいたとか」


チヨのことだ、とカレンは理解した。


「だから」蓮は娘を真剣に見つめた。「今日の調査は慎重にな。霧の調査は半端じゃないぞ。特に今日みたいな日は、何が起こるか分からない」


「分かってる」カレンは頷いたが、内心では不安が募っていた。


「俺も一緒に行きます」ユウキが申し出た。「カレン一人じゃ心配だし」


「大丈夫!」カレンは慌てて断った。「サークルのみんなもいるし」


「でも」ユウキは引き下がらなかった。「俺、カレンの側にいたい」


その真っ直ぐな言葉に、カレンは言葉を失った。蓮は二人の様子を見て、小さく笑った。


「ふふ、ルカの若い頃を思い出すな。あいつも素直じゃなかった」


「父さん!」カレンが抗議の声を上げた。


「まあ、ユウキ君がいれば安心だ」蓮は続けた。「ただし、本当に危険を感じたら、すぐに撤退すること。約束できるか?」


「はい」ユウキは力強く答えた。


カレンの瞳に揺らぎが生じた。ユウキの存在は、彼女にとっての「守り」であり、同時に「甘え」を許さない鏡のようだった。デジタルで全てを解決しようとするカレンの“影”が、ユウキの真っ直ぐな“光”によって炙り出されていく。


■不穏な兆候


準備を整えて玄関に向かう途中、カレンは町の異変をより詳しく観察した。


隣の家から、困惑した声が聞こえてくる。「あなた、誰?なんで私の家にいるの?」


「何言ってるんだ、俺は君の夫だろう!」


記憶喪失が、確実に広がっている。しかも、特定の人物に関する記憶だけが、選択的に消えているようだった。


スマートフォンに、緊急速報が入った。霧がかろうじて電波を通したらしい。


『霧梁県で原因不明の集団記憶障害が発生。現在までに43名が家族や知人の記憶を喪失。医療機関も対応に苦慮。県は住民に冷静な対応を呼びかけ』


「43名……」カレンは息を呑んだ。「朝より増えてる」


このままでは、町全体が記憶を失ってしまうかもしれない。そんな不安が、カレンの胸をよぎった。彼女の心臓が、警告音のように不規則に鼓動する。


■クロミカゲの警告


夜が深まるにつれ、霧はさらに濃密になっていった。魂写真館の庭に、突如として異様な気配が立ち込める。


銀と黒が混じり合った長い髪を持つ存在が、霧の中から姿を現した。クロミカゲ――かつてチヨとクロが融合して生まれた記憶の神は、金色と青のオッドアイで静かにカレンを見つめていた。狐の耳と九つに分かれた尾が、霧の中で幻想的に揺れている。


「時間の裂け目が再び開く」


クロミカゲの声は低く、それでいて館全体に響き渡った。その視線はカレンに注がれ、まるで魂の奥底まで見透かすような強さを持っていた。


「お前の心が鍵だ、夢写師の娘よ」


「私の心?」カレンは困惑した。「どういう意味?」


しかし、クロミカゲは答えなかった。代わりに、より不吉な言葉を告げた。「過去の失敗を繰り返すな。32年前、一人の巫女が犠牲となった。今度は、お前が試される番だ」


「チヨのこと?」カレンは前に出た。「チヨに何が起きたの?」


「それは、お前自身が見つけ出すことだ」クロミカゲは背を向けた。「だが、覚えておけ。時間は有限だ。夏至の日まで、あと7日。それまでに真実にたどり着けなければ……」


「なければ?」


「この町は、時間の渦に飲み込まれる。そして、すべての記憶が失われる」


クロミカゲの姿が霧に溶けていく。最後に、警告の言葉が残された。「心せよ。技術だけでは、魂は救えぬ」


カレンの視界が歪んだ。まるでSIDのレンズが、彼女の目の前で機能不全を起こしているかのように。技術に全幅の信頼を置いてきたカレンにとって、この警告は重くのしかかった。

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