第34話 健司の告白
幻影は踊り、時間は螺旋を描く。
消えぬ罪と、変わらぬ願い。
愛だけが、記憶の扉を開く鍵となる。
■健司の告白
魂写真館のリビングで、上條健司は静かに語り始めた。53歳になった彼の髪には白いものが混じり、目尻には深い皺が刻まれていた。しかし、その瞳には変わらぬ想いが宿っていた。
「32年前の今日、8月14日。チヨと最後に会った日です。明日が来なければいいと、本気で思いました」
彼の声は、32年間の歳月と、募るばかりの想いを静かに語っていた。
カレンは複雑な想いで健司を見つめた。32年という時間の重みが、彼の全身から滲み出ている。その重みは、まるで彼の心に刻まれた「写しの対象」そのものだった。
「なぜ今、ここに?」ルカが優しく尋ねた。
健司は鞄から古い新聞の切り抜きを取り出した。そこには、時計塔の異変についての記事が載っていた。
「この現象を見て、確信しました。チヨが帰ってくる時が来たんだと。32年間、毎朝時計塔の前で祈り続けた甲斐があった」
健司の声は震えていた。
■月影遊園地への誘い
「実は、もう一つ心当たりがあるんです。月影遊園地をご存知ですか?」健司は続けた。
「廃遊園地ですよね。都市伝説スポットとして有名な。夜中に、誰もいないはずのメリーゴーランドが動くとか」ユウキが答えた。
「ええ。でも、あそこは元々、チヨの祖父が始めた事業だったんです」健司は説明を始めた。
この新事実に、全員が驚いた。カレンの脳裏に、チヨの「語られなかった記憶」の断片がちらつく。
「橋爪家は代々写真館を営んでいましたが、チヨの祖父は夢を追い求めて遊園地も始めたそうです。月影ドリームランド。地元の子供たちに愛される、温かい場所でした」
「チヨの両親、照也さんと美咲さんは写真館を継ぎながら、祖父から引き継いだ遊園地の経営も続けていました。チヨも子供の頃、よくメリーゴーランドの係をしていたと」健司は続けた。
「でも、なぜ廃園に?」カレンが尋ねた。
健司の表情が曇った。「1985年、チヨが13歳の時、事故があったんです」
■1985年の悲劇
健司は、当時の新聞記事のコピーを見せた。『月影遊園地で事故 メリーゴーランド暴走 児童5名重軽傷』
「メリーゴーランドが突然暴走して、子供たちが振り落とされた。原因は機械の故障とされましたが、チヨは違うと言っていました」健司は説明した。
「違う?」ユウキが聞き返した。
「時間の歪みだと。その日、一瞬だけ時間の流れがおかしくなった。メリーゴーランドだけ、通常の10倍の速度で回転したんです」
それ以来、橋爪家は自責の念に苛まれた。被害者への補償で遊園地の経営は困難になり、結局閉鎖せざるを得なかった。写真館の経営も苦しくなったが、夢写師としての使命があるため、なんとか続けていた。
「そして、チヨは巫女としての修行に、より真剣に取り組むようになったんです」健司は続けた。
「事故がきっかけで、宿命を受け入れる覚悟を決めたんですね」ルカが理解した。
チヨの過去の「写しの対象」が、ここに明かされる。
「チヨは言っていました。『あの時、時間の歪みを目の当たりにした。だからこそ、私は巫女として時間を正す使命を果たさなければならない』と」健司は涙ぐんだ。




