第32話 健司への報告
■健司への報告
魂写真館に戻ると、意外な人物が待っていた。上條健司。32年間チヨを待ち続ける男性が、玄関前に立っていた。
「お帰りなさい。朽葉温泉に行かれたと聞いて」健司は穏やかに微笑んだ。
「健司さん。どうして」ルカが驚いた。
「感じたんです。チヨが、近づいている気がして」健司は胸に手を当てた。
カレンは、温泉での発見を報告した。チヨの最後の祈り、石碑の言葉、そして「愛と記憶の共鳴」という鍵。
健司は静かに聞いていたが、懐中時計の話になると、表情が変わった。「それ、今も持ってます。32年間、一度も手放したことはありません」健司は懐から時計を取り出した。
時計は、毎日磨かれているのか、新品のように輝いていた。そして、不思議なことに、針は止まったままだった。この懐中時計は、健司の変わらぬ愛という「写しの対象」を象徴している。「あの日から、動かないんです。でも、いつか動き出す日が来ると信じて」健司は説明した。
■夕暮れの決意
健司が帰った後、カレンは一人で考え込んでいた。
愛と記憶の共鳴。それは、科学では説明できない力。しかし、確実に存在する。健司の32年がそれを証明している。
「難しい顔してる」ユウキが紅茶を持ってきた。
「ありがと。ねえ、ユウキは32年も待てる?」カレンは受け取った。
「何を?」「大切な人を」
ユウキは少し考えてから答えた。「その人が、本当に大切なら、待てると思う。時間なんて関係ない」
「そう。私には、想像できない」カレンは紅茶を一口飲んだ。
「でも。待たせたくない。一緒にいたいから」ユウキは続けた。その言葉の意味を、カレンは理解した。頬が熱くなるのを感じながら、窓の外を見た。彼女の心の「影」が、ユウキの愛という「光」によって、少しずつ消えていく。
■新たな覚悟
夜、カレンは自室で新しいプログラムを書いていた。「愛と記憶の共鳴」をデータ化することは諦めた。しかし、それを増幅させることならできるかもしれない。
魂写機とSIDを連動させ、感情エネルギーを最大化するシステム。理論上は可能だ。
「カレン。夜更かしは体に毒よ」ノックの音がして、ルカが入ってきた。
「もう少しで完成する」カレンは画面から目を離さなかった。
ルカは娘の隣に座った。「チヨを救いたい気持ちは分かる。でも、焦らないで」
「時間がない。クロミカゲの警告、あと3日」カレンは唇を噛んだ。
「だからこそ。落ち着いて、確実に」ルカは優しく言った。母の言葉に、カレンは手を止めた。確かに、焦りは失敗の元だ。彼女の「拒絶」が、母の言葉という「光」によって「受容」へと変わる。




