第27話 朽葉温泉跡への道
湯煙は、記憶を呼び覚ます。
刻まれた誓い、時を越える愛。
心に宿りし真実、その輝きは永遠。
■朽葉温泉跡への道
朝靄が立ち込める中、カレン、ユウキ、ルカの三人は山道を登っていた。目的地は朽葉温泉跡――かつて湯治場として栄えたが、30年前に突然廃業した温泉地だ。
「ここにも時間の歪みが?」ユウキは護符を握りしめながら尋ねた。真の護符を継承してから、彼は時間の異常に敏感になっていた。
「ええ。1994年の封印の際、チヨはここで重要な約束を交わしたはず。その記憶が、場所に強く刻まれているの」ルカが古い地図を見ながら答えた。
カレンはSIDのセンサーを確認した。標高が上がるにつれ、電磁波の異常値も上昇している。そして、ある地点を境に、急激に数値が跳ね上がった。「ここから先は、時間の流れが不安定になってる。護符の力、使える?」カレンは警告した。カレンの瞳に映るSIDの数値は、目の前の現象を正確に示している。しかし、その数値だけでは測れない「何か」が、この場所にはあることを感じていた。
ユウキは頷き、護符を掲げた。淡い光のバリアが三人を包み込む。
■朽葉温泉の歴史
山道を登りながら、ルカは朽葉温泉の歴史を語った。「明治初期に開湯して、最盛期には年間10万人が訪れたそうよ。『神の湯』って呼ばれてたみたい。傷も病も癒す奇跡の温泉だって」ルカは古い観光パンフレットを取り出した。
「でも、なんで廃業したの?」カレンが尋ねた。
「1985年の夏。原因不明の事故が相次いだの。温泉に入った人が、記憶を失ったり、時間の感覚がおかしくなったり」ルカの表情が曇った。
「時間の異常。もしかして、ここも時間の結節点?」ユウキが察した。
「おそらくね。そして、チヨはそれを知っていた」ルカは頷いた。
■廃墟の温泉街
森を抜けると、朽ちた温泉街が姿を現した。木造の旅館が立ち並び、石畳の道が温泉場へと続いている。しかし、すべてが時間の中で凍りついたように、不自然な静寂に包まれていた。
「変だ……廃墟なのに、湯気が立ってる」ユウキが呟いた。
確かに、源泉と思われる場所からは、白い湯気が立ち上っていた。それも、30年前と変わらない勢いで。
カレンがドローンを飛ばすと、ARゴーグルに異様な光景が映し出された。「これは。時間が二重になってる」カレンは息を呑んだ。
温泉街全体が、二重写しになっている。現在の廃墟と、過去の賑わいが重なり合い、境界が曖昧になっていた。まるで、写真を重ねて撮影したかのような、不思議な光景。それは、時間という「写しの対象」が、二つの姿を同時に見せているようだった。
■生きている記憶
突然、旅館の一つから人影が現れた。着物姿の女性が、盆を持って廊下を歩いている。しかし、その姿は半透明で、まるで記憶の残像のようだった。
「いらっしゃいませ」女性の声が、時を超えて響いた。三人を見ているようで、見ていない。過去の一場面が、延々と繰り返されているだけだった。
「仲居さんの記憶。毎日同じ仕事を繰り返した、その記憶が場所に染み付いている」ルカが理解した。
さらに進むと、温泉街のあちこちで過去の光景が再生されていた。浴衣姿の宿泊客、土産物を売る店主、子供たちの笑い声。すべてが幸せだった時代の記憶。しかし、それらは実体を持たない、ただの残像だった。それらは、まさに「写し損ねたもの」のようでありながら、確かにそこに存在していた。




