第21話 再びの霧見駅
護符に刻まれし、千年の絆。忘れられた誓い、呼び覚ます血。時を繋ぐ者よ、その手で運命を紡げ。
■再びの霧見駅
朝霧が薄れ始めた頃、カレンとユウキは再び霧見駅跡に立っていた。昨日の調査で得たデータを元に、より詳細な解析を行うためだ。しかし今回の目的は、それだけではなかった。
「ユウキの家の蔵に、本当に手がかりがあるの?」カレンはSIDの機材を調整しながら尋ねた。彼女の瞳には、昨日受けたデジタルの限界への「影」が、まだ微かに宿っていた。
「祖父さんが町の歴史研究家だったんだ」ユウキは古びた鍵束を取り出した。「霧谷清。1920年生まれ、1994年に亡くなった。ちょうど、チヨさんが消えた年だ」
「偶然にしては」カレンは眉をひそめた。
「そう思うだろ?霧見駅の近くに、昔使ってた物置小屋があるって聞いてる。そこに資料を保管してたらしい」ユウキは続けた。
廃駅のホームは、昨日と同じように静寂に包まれていた。しかし、カレンのARゴーグルには、微かな変化が映し出されている。時間の歪みが、昨日より強くなっていた。「エネルギーレベルが15%上昇してる。このペースだと、あと4日で臨界点に達する」カレンは分析した。
■霧谷家の物置小屋
「見つけた」ユウキが線路脇の茂みをかき分けると、小さな物置小屋が姿を現した。木造の壁は苔むし、屋根には穴が開いているが、かろうじて原型を留めている。
扉には「霧谷」という表札が、かすれながらも読み取れた。「鍵が合うかな」ユウキは不安そうに古い鍵を差し込んだ。錆びついた錠前は、最初は動かなかった。しかし、ユウキが慎重に力を加えると、カチリと音を立てて回った。「開いた!」
扉を開けると、カビと古い紙の匂いが漂ってきた。
■霧谷清の遺品
小屋の中は、予想以上に整理されていた。防水処理された木箱がいくつも積み上げられ、それぞれに年代と内容を示すラベルが貼られている。「すごい……これ全部、ユウキのおじいさんが?」カレンは感嘆の声を上げた。彼女の好奇心が、デジタルの殻を破って飛び出すようだった。
「みたいだね。こんなにちゃんと保管してたなんて」ユウキも驚いていた。
箱のラベルを見ると、年代順に並んでいた。『1940-1950:戦時中の記録』『1951-1960:復興期の町史』『1961-1970:高度成長期の変化』『1971-1980:霧の異常気象記録』『1981-1990:時間異常の観測データ』『1991-1994:最後の研究』
「最後の研究?」カレンは1994年の箱を開けた。その瞬間、彼女の瞳の「影」が、知的好奇心の「光」によって打ち消されていくのを感じた。
中から、黄ばんだ写真や手書きの資料が次々と出てきた。そして、カレンの目を引く一枚の写真があった。
■衝撃の写真
若い女性が巫女装束を着て、神社の鳥居の前に立っている。その隣には、同じく若い男性が写っていた。写真の裏には「1994年7月 チヨと清 霧見神社にて」と記されている。
「これ……チヨおばさん?ユウキのおじいさんと知り合いだったの?」カレンは息を呑んだ。その事実は、チヨの「語られなかった記憶」として、カレンの心に新たな問いを投げかけた。
ユウキも驚いた様子で写真を見つめた。「初めて見た。親父も母さんも、こんな話一度もしなかったのに」
さらに写真を調べると、二人が一緒に写っているものが何枚も出てきた。神社での祭り、町の行事、そして——研究室らしき場所で、二人が何かの装置を囲んでいる写真。「共同研究してたみたい。これ、初期の霊的測定装置かも」カレンは写真を分析した。




