第16話 ルカの発見
■ルカの発見
「待って」ルカが静かに言った。「時間のループを抜けるには、ループの原因となっている『結び目』を見つけないと」
「結び目?」
「強い感情や記憶が時間に刻まれた瞬間。それがループを作り出している」ルカは説明した。
ルカは魂写機のレンズを通して階段を見上げた。すると、虹色の光の中に、過去の光景が浮かび上がった。
「見える。1994年の……」ルカは息を呑んだ。
魂写機のレンズに映る光景は、SIDが捉えられない「写し損ねた記憶」の確かな存在を証明していた。カレンの心の「影」が、少しずつ揺らぎ始める。
■1994年の記憶
映し出されたのは、32年前の光景だった。
若い頃のチヨが、必死の形相で塔の階段を駆け上がっている。巫女装束は乱れ、髪は振り乱されている。その後を、村人たちが追いかけていた。
「待て、チヨ!」「そんなことをしても、死んだ者は戻らない!」
しかし、チヨは振り返らなかった。その手には、古い巻物と、光る石のようなものが握られていた。
「もう時間がない!ここで封印しないと、村が飲み込まれる!」チヨの叫び声が、時を超えて響いた。
映像の中で、チヨは塔の最上階にたどり着いた。そこには巨大な魔法陣が描かれており、中心には深い井戸があった。
「チヨ、やめろ!」若い男性が、必死にチヨを止めようとした。カレンは、その顔に見覚えがあった。昨夜会った老人の、若い頃の姿だった。上條健司。
「健司さん、ごめんなさい。でも、これしか方法がないの」チヨは涙を流した。
チヨは迷うことなく、その井戸に身を投げた。
「チヨおおお!」健司の絶叫が響く中、井戸から眩い光が溢れ出した。そして、時計塔の針がぴたりと止まった。
■ループの解除
映像が消えると、不思議なことが起きた。
階段の5段目に、小さな光が灯った。それは、チヨの涙が落ちた場所だった。
「ここが結び目。チヨの強い想いが、時間を縛っている」ルカは理解した。
「じゃあ、どうすれば」カレンが尋ねた。
「想いを受け止めて、解放する。カレン、あなたも一緒に」ルカは魂写機を構えた。
カレンは躊躇したが、母の隣に立った。SIDと魂写機、二つの技術を同時に使う。彼女の「拒絶」が、「受容」へと一歩踏み出す瞬間だった。
「チヨさん。あなたの想い、受け取ります」カレンは光に向かって語りかけた。
シャッターを切ると、光が弾けた。そして、ループが解けた。三人は階段の途中に立っており、上への道が開けていた。SIDのレンズに、ようやくクリアな光が差し込んだ。
■異形の階段
ループを抜けた先も、試練は続いた。
階段は更に複雑になり、重力の方向が頻繁に変わった。天井を歩いているかと思えば、次の瞬間には壁を這っている。
「うわっ」ユウキが足を滑らせた。
しかし、落ちたのは下ではなく、横だった。壁に激突しそうになったユウキを、カレンが掴んだ。
「ありがとう」「お互い様」ユウキは青い顔で礼を言い、カレンも息を切らしていた。
20分かけて、ようやく中層部にたどり着いた。そこには、小さな休憩所のような空間があった。
■過去の遺物
休憩所には、古い机と椅子が置かれていた。そして机の上には、埃を被ったノートが残されていた。
「これは。時計塔の管理日誌」ルカが手に取った。
ページをめくると、歴代の管理人が記した記録が残っていた。最後の記述は、1994年8月15日で止まっていた。
『今日、若い巫女が塔に入った。何か大変なことが起きる予感がする。針が狂ったように回り始めた。もう、制御できない』
「チヨが来た日だ」カレンは理解した。
さらにページを遡ると、興味深い記述があった。
『この塔は、ただの時計塔ではない。時の流れを調整する、古代の装置だ。しかし、使い方を誤れば、時間の秩序が崩壊する』




