第15話 エッシャーの悪夢
■エッシャーの悪夢
石造りの螺旋階段が上へと続いているが、その形状が明らかにおかしい。階段が途中で枝分かれし、ある部分では上りと下りが交差している。
「これ、どうなってるの」ユウキが困惑した。
ある階段は壁を這うように横に伸び、別の階段は天井から逆さまに生えていた。まるでエッシャーの絵画のような、不可能な構造を現実に作り出している。
「空間自体が歪んでる。重力の方向も場所によって違う」カレンはSIDでスキャンした。
試しに小石を投げてみると、放物線を描かずに、ジグザグに飛んでいった。途中で急に方向を変え、最後は斜め上に「落ちて」いった。
「気をつけて。ここは時間が正常に流れていない」ルカが魂写機を構えた。
カレンの瞳に映るのは、SIDが示す異常な数値の羅列。しかし、その奥で、彼女の理性が「これは写し損ねた現実だ」と叫んでいた。
■最初のループ
三人は慎重に階段を上り始めた。「1、2、3、4、5……」カレンは段数を数えた。
5段目を踏んだ瞬間、突然景色が巻き戻った。「え?」気がつくと、三人は再び入口に立っている。しかし、カレンの歩数計は確かに歩いた距離を記録していた。
「今の、なに?」ユウキが混乱した。
「時間がループしてる。5分間隔で、同じ時間が繰り返されている」カレンはSIDのデータを確認した。
画面には、時間軸の異常なグラフが表示されていた。直線であるべき時間の流れが、5分ごとに折り返している。
「どうすれば抜け出せる?」ユウキが尋ねた。
カレンは必死に思考を巡らせた。物理的に進んでも、時間的には元に戻される。これでは、永遠に同じ場所を回り続けることになる。SIDのレンズに、焦燥の「影」が濃く浮かび上がる。彼女のデジタルへの「拒絶」が強まる。
■ループの恐怖
2回目の挑戦。今度は走って階段を駆け上がろうとした。「急げば、5分以内に抜けられるかも」
しかし、10段目まで到達したところで、再び巻き戻された。
3回目。ドローンを飛ばそうとしたが、塔内部の異常な空間構造により、すぐに制御を失った。機体は見えない壁にぶつかったかのように跳ね返され、カレンの手元に戻ってきた。
「くそっ!」カレンは苛立った。拳を握りしめ、歯を食いしばる。「物理法則が……めちゃくちゃだ」
4回目、5回目、6回目……同じことの繰り返しに、精神的な疲労が蓄積していく。時計の針は進んでいるのに、自分たちは同じ時間に囚われている。この矛盾が、じわじわと正気を蝕んでいく。カレンの視界に、薄い膜がかかったようだった。
「もうダメだ。頭が、おかしくなりそう」ユウキが膝をついた。
「しっかりして。必ず方法があるはず」カレンも限界を感じていたが、ユウキを励ました。
しかし、10回目のループを迎えた時、カレンの中で何かが折れそうになった。永遠にここから出られないのではないか。そんな恐怖が、暗い「影」のように心を覆う。彼女の瞳の光が、急速に失われていく。




