第14話 時計塔の異容
■時計塔の異容
町の中心部に近づくにつれ、異常はより顕著になった。
歩いている人々の動きが、まるでコマ送りのようにぎこちない。ある人は高速で動き、別の人はスローモーション。時間の流れが、個人レベルでバラバラになっている。
「もうすぐ着く」ルカが緊張した声で言った。
霧の向こうに、時計塔の輪郭が見えてきた。明治期に建造された時計塔は、石造りの重厚な建築物だった。高さ約30メートル、町のどこからでも見えるランドマークとして、長年町民に親しまれてきた。しかし今、その姿は異様だった。
塔の周囲だけ、霧が渦を巻いている。まるで巨大な竜巻の目の中にいるかのように、霧が円を描いて回転していた。回転速度も一定ではなく、加速したり減速したりを繰り返している。
そして塔の頂上では、巨大な時計の針が狂ったように回転と逆回転を繰り返している。
「物理的にありえない。あんな動き、機械構造じゃ不可能だ」カレンは息を呑んだ。
時計の文字盤から、紫と青の光が漏れ出していた。それは昨夜見たオーロラと同じ色で、まるで時計自体が光源となっているかのようだった。光は脈動するように強弱を繰り返し、その度に周囲の時間の流れが変動した。
■歪んだ時空
「データがすごいことに。時計塔を中心に、半径100メートルの時空が完全に歪んでる」カレンはSIDの画面を見せた。
画面には、3次元で可視化された時空の歪みが表示されていた。それは、まるで布に重い球を乗せたような、深い窪みを形成している。
「理論上。こんな歪みがあったら、周囲の建物は崩壊するはず。でも」カレンは説明した。
確かに、時計塔の周りの建物は無事だった。いや、無事というより、時間の中で凍結されているように見えた。
「あれ」ユウキが気づいた。「鳥が」
空中で、数羽の鳥が静止していた。羽ばたきの途中で、まるで写真のように固まっている。しかし、よく見ると、非常にゆっくりと、1秒に1ミリ程度動いていた。
「時間の極端な減速。あの鳥にとっては、普通に飛んでるつもりかも」カレンは分析した。
カレンの瞳に、困惑と焦燥の「影」が深まる。彼女の理屈では説明できない現象が、次々と目の前で繰り広げられていた。
■入塔
入口の重い扉は、なぜか半開きになっていた。普段は施錠されているはずなのに、まるで彼らを招き入れるかのように。
「罠かもしれない」ユウキが警戒した。
「でも、行くしかない」カレンは意を決して足を踏み入れた。彼女の決意は固いが、その一歩はどこか重い。
扉をくぐった瞬間、強烈な違和感が襲った。「うっ」三人同時に、めまいのような感覚に襲われた。体が重くなったり軽くなったりを繰り返し、平衡感覚が狂う。カレンの視界が歪む。
「時間密度の違い。体が適応しようとしてる」カレンは壁に手をついた。
内部は、外観からは想像もつかない構造になっていた。本来なら、石造りの螺旋階段が真っ直ぐ上へ続いているはずだった。しかし、今目の前にあるのは、論理を無視した空間だった。




