第12話 深夜の来訪
■深夜の来訪
深夜、カレンが一人でデータ解析を続けていると、窓の外に人影が見えた。
慌てて窓を開けると、そこには見知らぬ老人が立っていた。しかし、その瞳には見覚えがある。金色の、カレンと同じ色の瞳。
「あなたは」
「夜分に申し訳ない。私は、32年前を知る者。そして、あなたに伝えなければならないことがある」老人は丁寧に頭を下げた。
老人は懐から、古い写真を取り出した。そこには、若い頃のチヨと、もう一人の青年が写っていた。「これは」「チヨの恋人、上條健司。今も、彼女を待ち続けている」老人は説明した。カレンは息を呑んだ。32年も?
「明日、時計塔に行くのでしょう。気をつけなさい。あそこは、時間の結節点。過去と未来が交わる場所。準備なしに挑めば、チヨと同じ運命を辿ることになる」そう言い残し、老人は霧の中に消えていった。カレンの瞳に映る老人の残像は、まるで時間の「写し損ねたもの」が、まだこの世界に漂っていることを告げているようだった。
■決戦前夜
カレンは写真を見つめた。チヨの笑顔は、カレンによく似ていた。いや、カレンがチヨに似ているのか。
「32年か」カレンは呟いた。
それだけの時間、誰かを待ち続けることができるだろうか。そして、待たれる側の気持ちは。
ふと、ユウキの顔が浮かんだ。今日、命懸けで自分を守ろうとしてくれた。そして、これからも側にいると言ってくれた。「私も。ユウキを守らないと」カレンは小さく呟いた。
窓の外では、霧がさらに濃くなっていた。時計塔の方角から、不気味な光が漏れている。
明日、すべてが決まる。
カレンは夢写機とSIDを並べて置いた。新しい技術と古い技術。どちらも必要だと、今日の経験で分かった。SIDの曇っていたレンズが、微かに光を帯び始めた。心の「影」が薄れ、受容の「光」が差し込んだ瞬間だった。
「チヨさん。必ず、助け出します」カレンは写真に語りかけた。
そして、明日への覚悟を固めた。
記憶喪失は、既に町の人口の1割に達していた。タイムリミットは、刻一刻と迫っている。




