第7話:「隠された祭壇(さいだん)と、癒やしのチカラ」
ナナの体調が回復してから、村の空気が少しずつ変わっていった。
「ユキちゃん、これ、お礼に焼いたの。クッキーだよ!」
「ユキ、今度一緒に木登りしよ!」
村の子どもたちが笑顔で駆け寄ってくる。
昔は近寄るのすら遠慮がちだったのに、今ではすっかり仲間のように接してくれる。
「……不思議だな。人の優しさって、こんなに温かかったんだ」
そんなある日、子どもたちのひとり、【ティノ】が森で姿を消した。
「昼すぎから見てないって? 森の奥に入ったかも……?」
村人たちは慌てて探し始めたが、森の奥までは誰も近づきたがらなかった。
「行ってきます。ぼくが、探してきます」
ユキは迷わず、ナナと共に森へと入っていった。
* * *
木々がざわめく音だけが、耳に残る。
「ティノー! どこー!」
何度も呼びかけながら歩いていくと、不意に視界が開けた。
そこには――
「……なに、ここ……?」
苔に覆われた古びた石の壇。
中央には、薄く青白く光る《魔石》が祀られていた。
その前に、ティノが蹲っている。
「ティノッ!」
駆け寄ろうとしたユキに、ナナが叫ぶ。
「ユキ、待って! その魔石、ただの癒やしじゃない!」
遅かった。ティノが魔石に触れた瞬間、全身が震えだした。
「うぅ……頭が、痛い……」
魔石は、“癒やし”と“呪い”が重なり合った存在だった。
「ティノを、助けないと……!」
ユキは手をかざし、魔力を込めて魔石に対峙した。
だが呪いの力は強く、ユキの魔力だけでは足りなかった。
* * *
そのとき。
「その子を、離しな……」
低く、けれどどこか優しい声が、森の奥から響いた。
見ると、木の杖を手にした年老いた女性が、ひとり歩いてくる。
「だ、誰……?」
「この森を見守る者さ。精霊の巫女と呼ぶ者もいる」
老婆はそっとティノの背に手をかざすと、魔石の光が一瞬だけ和らいだ。
「ユキというのか……。あんたには“気”がある。本当の癒やしを引き出す力がな」
老婆はユキの手をとると、魔石の方へ向けた。
「心で願いな。傷つくすべての者が、癒やされるようにと」
その瞬間、ユキの体から柔らかな光が溢れ出す。
《癒やしの領域》が展開された。
光の中で、ティノの体が穏やかに包まれていく。
「ユキ……ありがと……」
意識を取り戻したティノが、小さく笑った。
そして魔石に触れたユキの目に、一瞬だけ《映像》が流れ込んできた。
そこには、昔この地で人々を癒やしていた巫女の姿。
戦火で消えた祈りの場。
そして、涙ながらに魔石を埋める一人の少女の姿が――
《過去視の瞳)》――
触れた者の“想い”を、断片的に読み取る力。
ユキは静かに目を閉じた。
「この力……もっと誰かを癒やすために、使いたい」
その言葉に、森の風がやさしく吹いた。