第4話:村の異変と、ユキの初めての戦い
ナナ――スライムの仲間を救ってから数日。ユキはますます村の子どもたちの輪に溶け込み、平穏な日々を過ごしていた。
ナナも常にユキのそばにいて、まるでペットのように腕の中で丸くなっていた。
「ナナ、ほんとに表情豊かだよなぁ。スライムなのに」
「ぷるっ♪」
ナナはご機嫌らしく、青白く発光していた。
そんな穏やかな午後だった。
「――村の家畜が、いなくなった?」
村人たちの間に、ざわめきが走っていた。昨夜から数頭の《ヤーク》という毛の長い家畜が、柵を破って消えたというのだ。
「また森の奥に潜む魔獣かもしれん……子どもたちは今日は外出禁止だ」
村長の指示で広場は静まり返り、子どもたちは不安げに家の中に集められた。
だが、ユキは気になってしかたがなかった。
「何か、感じる……。あの森の奥……昨日のスライムと同じ、イヤな魔力……」
ナナがそっと体を震わせた。
「ユキ……あそこに、きっと……もっと怖いものがいる……」
「……わかった。ナナ、一緒に来てくれる?」
「うん」
夜、皆が寝静まった頃。ユキはこっそりと家を抜け出し、ナナと共に森の奥へと向かった。
草をかき分け、風を読み、気配を殺すように進む。
やがて、開けた場所にたどり着いたとき――そこには異様な光景が広がっていた。
倒された家畜たち。漂う腐臭。黒い霧のようなものが渦を巻き、中心に浮かぶ《魔獣:グルマーグ》がいた。
「うわ、デカ……」
黒くねじれた狼のような体躯。目は光り、口からは毒気を含んだ息が漏れていた。
ユキは咄嗟に身をかがめたが、グルマーグはすでにこちらに気づいていた。
「ちっ……!」
その瞬間、またしても頭に電子音のような何かが響く。
――《新たな能力が発現しました:〈空間操作〉》
「えっ、ちょ、今ここで?!」
気づけば足元に陣が広がり、空間がぐにゃりと歪んだ。グルマーグの爪が振り下ろされた瞬間、それは空間ごとすり抜けてユキの背後に着地した。
「す、すげえ……これ、相手の動きを“ズラす”能力……?」
ナナがぴょんと飛び上がる。「いまだよ!」
「いっけええええ!」
ユキは手近な枝を握って跳びかかり、空間操作で一瞬だけ相手の重心を崩す。そこへ渾身の一撃。
グルマーグが、ぐらりと崩れ落ちた。
「……やった?」
倒れた魔獣が霧とともに消え、あたりは静けさを取り戻した。
「やったね……ユキ」
「……ああ、マジで怖かったけど、なんとかなったな……」
その夜、ユキは誰にも知られず、村をひとつ救った。