第3話:助けを求める声、そしてスライムとの出会い
その日は、村の外れの森まで薪拾いに行くことになった。
子どもたちの間でも、小さな仕事を手伝うのが日課らしい。ユキも、すっかり“仲間”として受け入れられ、自然な流れで一緒に森へ向かっていた。
「ここら辺の木は乾いてて燃えやすいよ!」
元気に走り回る子どもたち。ユキも手頃な枝を拾いながら、何気ない日常に心がほどけていくのを感じていた。
――その時だった。
森の奥から、微かに声が聞こえた。
「……たすけ、て……」
「えっ?」
誰も気づいていないようだ。声の方向に耳を澄ます。
「まってて! ちょっと行ってくる!」
子どもたちにそう言い残し、ユキはひとり、声のする方向へ走り出した。
小さな足ではあるが、不思議と軽やかに走れる。草をかき分け、枝を避けながら、やがて小さな窪地にたどり着いた。
そこに――いた。
青白く透き通った《スライム》が、罠のような《魔法陣》に捕らわれて、ぐったりしている。
「……生きてる?」
目を凝らすと、わずかに身体が震えている。魔力を吸われているのか、体内のコアが不安定に揺れていた。
「だれか、たすけて……ひとりは、いや……」
声が、直接頭に響いた。テレパシー……? スライムなのに? いや、そもそもこの子、感情が……ある?
「大丈夫……今、助けるから!」
ユキは周囲を見回した。魔法陣はかなり複雑で、無理に手を出すと反動が来そうだ。
だがその瞬間、ふわりと頭の中に何かが流れ込んできた。
――《新たな能力が発現しました:〈解析解除〉》
「おお、また来た!」
ユキの指先が自然と動き、複雑な紋様をなぞる。その動きは完全に無意識。神経が勝手に知っていたようにすら思える。
最後の線を引き終えると、魔法陣が光を放ち、消えた。
「……できた……?」
スライムが、ぷるん、と震えた。そして、ぴょんと跳ねてユキの腕の中に飛び込んできた。
「た、たすかった……ありがとう、ありがとう……」
「よかったぁ……」
体温も、感情も、確かに“生きている”と感じられるその存在に、ユキは笑顔を返した。
「よし、君の名前……何にしようかな……」
その瞬間、スライムが小さく震えて答えた。
「……ナナ、って……呼ばれてた気がする……」
「じゃあ、ナナ。これからよろしくね」
スライム――ナナが嬉しそうに、ユキの手の中でぷるぷると震えた。




