第94話 セーフティー
「怪盗?」
「ええ、怪盗ですお嬢さん。残念ながらヒーロークラスではありません。私達はレアクラスです」
こいつはほんと、ペラペラと……
クラスが怪盗である事を知られただけなら、正体が見破られる様な心配はない。
が、世の中何が起こるか分からないのだ。
本気で正体を隠すなら、余計な情報は出さない方がいいに決まっている。
「レアクラスの怪盗……うーん……」
勇気の答えに、天魔が眉根を顰めた。
「レアクラスにそんなクラスはないと思うんだけど?」
「ふふふ、世界は広い。あなたの知らない未知はまだまだ転がっているという事ですよ」
「んー……でも、ダブルGさん達って、ここでペア狩りするんだよね?レアクラス二人じゃ、流石に厳しいんじゃないの?まあ出来ないとは言わないけど……その場合、とんでもレベルのユニークスキルがないと。ひょっとして、凄いユニークスキルを持ってるとかかな?」
怪盗に興味があるのか、天魔がグイグイ来る。
ひょっとして、変な称号さえなければ案外女性人気は高いのか……いや、単に彼女が変わってるだけだろう。
まあ仮にそうだったとしても、既にダブルGって風評があるから今更だしな。
「そこはご想像にお任せしますよ」
「おおう、くーるだねぇ……あ、そうだ!ここで会ったのも何かの縁って事で、折角だしパーティーを組んで一緒に狩りなんてどう?」
「遠慮しておきますよ(だが断る!)」
勇気の先手を取り、素早く断りを入れる。
まあ勇気もイエスとは言わないだろうけど、万一って事もあるからな。
「えぇー」
断られて、天魔は不服そうだが、俺の戦う姿を彼女に見せる訳には行かない。
なにせ俺の戦闘スタイルは、まずは勇気の胸を揉み、そして魔物の胸を揉むところから始まる訳だからな。
そんな姿を、年頃の女の子に見せる訳にはいかないのだ。
後、こわーい保護者もいるしな。
「我々は怪盗ですので……容易く人に手札を晒す様な真似はしないのですよ。ご理解ください」
我ながら完璧な理由づけだ。
怪盗にこう返されたら、天魔も諦めざるを得ないだろう。
「むう……じゃあ連絡先を交換するって事で!」
なにが『じゃあ』なのか。
諦めの悪い子である。
「申し――」
「構いませんよ」
俺が断ろうとしたら、勇気がオーケーしてしまう。
何考えてるんだコイツは?
ひょっとして、天魔みたいなタイプが好みなのか?
いやでもこいつカラスだし、流石にそんな理由じゃないよな。
「私の方だけになりますが、それでも良ければ」
勇気を見ると、俺にウィンクして来た。
まあ何か考えがあるって事なのだろう。
「じゃあ、はい」
勇気がスマホを出し――こいつそんなもん持ってたんだな――天魔の出したスマホとブルートゥースでお互いの連絡先を交換する。
「では……私達は狩りに向かいますのでこれで」
「まったねー」
ダンジョンを鑑定してマーキングを動かし、俺は魔物のいない場所へと転移する。
勇気もそれを追って転移してきた。
「なんで連絡先を交換なんかしたんだ?」
「彼女は私達に強い興味を持ってましたから。連絡先交換を断っていたら、最悪鑑定されてましたよ。それでもいいんですか?」
「鑑定か……」
天魔の能力の中に鑑定はなかったはず――習得しているスキルが多かったが、流石に鑑定を見落としたりはしない。
なので、彼女のパーティーメンバーの中に鑑定持ちがいるという事だろう。
勇気がわざわざ言う位だし。
だが……
「鑑定は分かる人間にはわかるし、許可を取らなきゃ攻撃を仕掛けたに等しいって……彼女が俺にそう言ってた訳だが?」
「マスターにはそれが分かるんですか?」
「まあ、確かに俺にはわからないな」
子供の頃、アルマイヤさんの鑑定を受けた時は全く分からなかった。
なので、今鑑定されても気づかない可能性は高い。
「けど、だからって怪盗Gが気づかないとは限らないだろ?彼女はこっちの事を知らない訳だし」
「そうですね。でも……最悪、バレて敵対しても構わないって思ったなら鑑定してくるのでは?」
「む……」
まあ確かに、戦ったら絶対向こうが勝つだろうし。
敵対しても構わないって考えたなら、鑑定してくる可能性はある。
けど――
「そこまでして俺達の事を調べてどうすんだよ。俺も別にあの子の事を良く知ってる訳じゃないけど、興味本位で他人と敵対する様な行動をとる子だとは思えないぞ」
―—そう、理由がない。
倫理観やモラルが狂ってる残念な人間なら兎も角、あの子はそういう残念な部類ではない筈だ。
「ふーむ……んー、ちょっと待ってくださいね」
勇気が考え込む。
が、直ぐに口を開いた。
「彼女は特別なんですよ」
「特別?」
「情報が色々とロックされているので私も詳しくは知らないんですが、天魔輪廻って子は強いパーティーメンバーを集めてるんですよ」
強いパーティーメンバーを集めてる、か。
そういや彼女のパーティーは3人だし、まあ残り4人集めるのは不思議でも何でもない。
普通ならそうだが……まあ、それだけじゃないんだろうな。
情報がロックされてる云々言ってるし。
鑑定して敵対するリスクを負ってまで、強いメンバーを探すなんて普通はしないだろうからな。
「なんで天魔輪廻は強いメンバーを集めてるんだ?」
「《《ダンジョンの完全攻略》》を目指してるみたいですね」
「完全攻略?」
ダンジョンの完全攻略ってどういう状態だ?
ゲームじゃないので、明確なクリアみたいなのはないんだが……全部のダンジョンの最奥に到達するとかそんな感じかね?
最奥到達ってなると、当然ダンジョン最奥にいるボスを倒す必要が出て来る。
だが現在、討伐に成功しているのはレベル96までだ。
日本だけでいうなら、レベル94のボスまでだな。
ボスには人数制限があるから……
可能な限りメンバーの質を上げる形でボス討伐を目指すには、当然、優秀なメンバーが必要になって来る。
そのために強い奴を探してるって事かな?
高レベルボス討伐は名誉や、報酬の面で期待できる。
だから多少仲たがいしていても、それが手に入るのなら誘いに乗る可能性は高い。
それなら鑑定してでもってのは頷けるな。
「ふむ……まあなんにせよ、天魔輪廻には気を付けた方がいいみたいだな。早々出会う事はないだろうけど、鑑定されたら偉い事になる」
早々出会う事はないとは言ったが、あの子とはちょくちょく顔を合わせてるんだよな……
またどこかで遭遇する可能性は高い気がする。
困ったもんだ。
「正体がバレて力を失うのは絶対避けないとな」
何だかんだで怪盗化は強力なスキルだから、今失ったら戦力大幅ダウン待ったなしだからな。
最悪バレるにしても、ランクアップポーションを入手してからでないと駄目だ。
「マスター。鑑定されない画期的な方法がありますよ。聞きますか?」
「そんな手があるのか?」
どうやら勇気には妙案がある様だ。
流石勇気。
さすゆう。
「彼女に正体をバラせばいいんですよ」
「……いやトンチか何かか?」
何言ってんだコイツは。
バレたら困る。
だからバレる前に打ち明けてしまおう。
どんな謎理論だよ。
「忘れたんですか?怪盗化は、一人だけならバレても問題ないってのを」
「ああそういやそうだったな」
なるほど。
事情を話して正体をバラせば、少なくとも勝手に調べられたあげく吹聴される様な心配はなくなるな。
が――
「断る!」
ダブルGの異名が付く前なら、その可能性も考慮したんだろうが……
今や怪盗は不名誉の塊だからな。
なにが悲しくて思春期の女の子に、お兄さんは噂の変質者怪盗ダブルGなんだよって打ち明けにゃならんのだ。
そう!
シーカー王道光の名は綺麗なままでなくてはならないのだ!
「駄目ですか」
「他の案で頼む」
「我儘ですねぇ」
「バレる前提じゃなくて、こう……相手の鑑定を封じる手段とかはないか?」
駄目元で聞いてみる。
鑑定無双を吹っ飛ばす素敵な方法がないかと。
「鑑定結果のかく乱とかですか。まあありますよ」
「なんだよ。ちゃんとあるんじゃないか。それで、どうすればいいんだ」
「別にどうする必要もありませんよ」
「ん?どうする必要もない?どういう事だ?」
「怪盗化には、相手の鑑定をかく乱する効果がありますんで。変身中に鑑定されても正体がバレる心配はないんですよ。制限がきついんですから、それ位のセーフティーはかかってるに決まってるじゃないですか」
「そうか、変身中はセーフティーがあるのか……じゃあ、今の鑑定云々のやり取りは何だったんだ?あと、なんで必要もない連絡先交換をした?」
変身してない時の鑑定問題は残るけど、そもそも無名のシーカーにいきなり鑑定してくる奴もいないだろうから、それは別に心配しなくてもいいかな。
「鑑定を阻害するとなると、余計彼女の興味を引く事になるじゃないですか。だから鑑定はされない方がいいんですよ」
「まあ確かに……」
「それと連絡先を交換したのは、後々役に立つかもと思ったからです。流石に今のままじゃ、Sランクの高レベルボス討伐は夢物語ですからね。強いシーカーとコネを持っておいて損はないかと」
流石に、Sランクのボスをソロ討伐するのは現実的じゃないからな。
レベル97の奴とか、トップ層42人で挑んで返り討ちに会ってるわけだし。
そう考えると、確かに優秀なシーカーやギルドとの伝手はあった方がいいのだろう。
まあ相手が俺を受け入れるかって問題は残るけど……
強いメンバーを求めてる天魔ならワンチャンって所か。
「ま、彼女の事が何故か気になるってのも多分にありますけど」
「……」
そういやこいつ、元人間のシーカーっぽいのを匂わせてたよな。
じゃあやっぱり天魔に気があるって事か?
まあ、確かに顔はかなり可愛いよな。
天魔輪廻は。
ただ、彼女には大きな欠点が一つある
それは――
胸が余り大きくない事だ。
ま、16歳だから当たり前っちゃ当たり前なんだろうが。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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