第87話 ウィンウィン
「気になるのはこの球と、Uマーク付きのスキルブックだな。取り敢えずスキルブックの方から確認するか」
こういう時は、当たりは後に置いておくべきだ。
という訳で、ノーマルドロップのスキルブックから確認する。
「スキルブックは鉄壁か」
「あたりですね。まあ、タンカーにとっては、ですけど」
「ああ、まあ……確かに俺が使うのは正直って感じだな」
鉄壁は使用すると――任意でオンオフ出来るタイプ――防御力が上がるスキルだ。
その上昇量はなんと2倍。
ハッキリ言って、大当たり効果と言っても良いレベルである。
但し、このスキルにはデメリットがあった。
それは敏捷性が半減するという物だ。
ほぼ幸運頼りの俺だが、その次に重要なのが敏捷である。
攻撃防御両面で活躍するステータスだからな。
そして俺の防御力は低め。
シーフと怪盗には、防御力を強化するマスタリーやアクティブスキルがないためだ。
そんな俺の防御力2倍にした所で効果はたかが知れている。
敏捷性を半減させてまで使う価値は正直ない。
このスキルは勇気の言う通り、敏捷性が低くても自分の役割を全う出来る、タンカークラス向けのスキルとなっている。
「別に使っても損する訳じゃないけど……鑑定に送ってオークションにかけた方がいいか。いや待てよ。たぶん聖もこれを欲しがるはずだ。なら――」
「プレゼントされるんですか?」
「しねーよ。これの価値がいくらすると思ってんだ?」
このスキルブック、オークションに出せば恐らく数十億は下らない値が付くだろう。ひょっとしたら数百億って可能性すらある。
なにせ、敵の攻撃を受けるタンカーの硬さはボス戦で安定度に直結する訳だからな。
なので高価な防具より価値があると言っても過言ではない。
いやまあ、使用中はMP消費し続けるからそれは言い過ぎか。
だが、それに近い価値があると大手ギルド辺りは考えてもおかしくはない。
そんな数百億のアイテムをプレゼントだと?
同じ夢を目指しているとはいえ、ただの友人に?
ねーよ。
こんなくっそ高価な物、これから結婚しようとか考えてる様な相手にだってプレゼントしねーっての。
「売るに決まってるだろーが」
聖は既にレベル90に達している――ネットの記事で見た。
そしてあいつは大手キャッスルギルドの次期エースだ。
というか、もうほぼエース扱いで露出している。
そんな聖なら、スキルブックを買うだけの金を持ち合わせているはずだ。
まあなけりゃないで、ギルドから借りるなり融資を受けるなりするだろう。
「ケチ臭いですね」
「ケチ臭いってお前……こんな高額なもんポンと友人にプレゼントするとか、石油王ぐらいのもんだろうが。俺はそんな金持ちじゃねーよ」
いや、むしろ石油王だって怪しいレベルだぞ。
まあなんにせよ……
聖は強力なスキルを手に入れ。
そして俺は売った金で防具を買う。
正にウィンウィン。
これこそ友情のあるべき姿と言っていい。
問題があるとしたら……どうやって売りつけるかだな。
王道光として接触する場合、どうやって手に入れたんだって話になるし。
怪盗として接触する場合、なんで聖を指定して売りに来たのかって問題が出て来る。
ま、その辺りは後で考えるとしよう。
まずは他のアイテムを鑑定だ。
「次は球だな」
俺はミスティックホールから取り出し、宝箱から手に入れた謎の球を鑑定する。
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