第85話 怪盗は孤高
「Dランクのは殺意高いな」
次に通路を見つけたのは、Dランクのダンジョンだった。
設置されていたトラップは、Fランクの時の両サイドの壁が閉じると言う感じの物だ。
通路はFランクの時よりも短かったので、通り抜けるだけならむしろ難易度は低い。
じゃあなぜ殺意が高いのかというと、宝箱を開けた瞬間通路に大量の魔物が湧いたからだ。
「怪盗にランクアップする前の適正レベルでここに来てたら、死んでた可能性が高いな」
湧いたのはダンジョン内の通常の魔物だ。
なので決して強い訳ではない。
とは言え、時間制限のある通路にぎっしりとなると話は変わって来る。
距離が短いとはいえ、魔物の対処をしながら出口を目指すというのはかなりハードだ。
少なくとも、Dランク相当のシーフが、しかも敏捷性ではなく幸運に振っている状態でここを無事に突破できたかというと、かなり怪しい。
「私の訓練も受けてませんし、結構な確率でそうなってたでしょうねぇ」
ミスリルスライムと出会う前とかなら、調子乗って取りに来てた可能性が高い。
見つけらなくて本当よかった。
「ま、流石に今のマスターが躓く様な物ではありませんが」
「まあな」
相手をする意味もないので、神出鬼没を使って秒で家に帰って来たからな。
「さて、じゃあ【幸運】のレベルを上げるとしようか」
手に入れたのはお馴染みスキルアップの書である。
これを使って、これまた定番の【幸運】を強化しようと――
「あれ?使えないぞ?」
「レベル上限に引っかかったからですね」
「え、じゃあ【幸運】のスキルレベルの上限は6なのか?」
レベル10が上限だと思っていたのだが、どうやら違う様だ。
「正確には7ですね。ステータスによる条件的なレベルアップの分は、ステータスを上げてしか上げられませんので」
「ステータスを100まで上げたら、とりあえず7までは上がる訳か」
「ええ。ラッキーセブンです。幸運だけに……」
「……」
冗談抜きでそれにかかってそうだな。
レベル上限が7なのは。
「じゃあ、他の奴を上げるか……」
上げるとするなら怪盗化と、短剣マスタリーのどちらかだな。
ポイズンエンチャントは控えめに言ってゴミだし――ダメージが低すぎて、もう今はほぼ使ってない状態だ。
ミスティックホールもレベルを上げる必要性は感じない。
今でも十分すぎるほどの容量があるからな。
身軽もたぶん、敏捷以外にもステータス補正が付く怪盗化の方が有用だろう。
「火力を上げるな短剣マスタリーで、動きや追加スキルに期待するなら怪盗化だけど……」
どっちにすべきか。
「ふむ……ま、怪盗化でいいか」
敏捷性が上がれば結果的に火力も上がるわけだし、追加スキルが期待できる怪盗化の方が可能性がある。
ような気がするので、怪盗化を上げる事に決定。
「ま、それが無難ですね」
リトマス紙こと勇気が反対しないって事は、この選択がハズレって事はないはず。
という訳で、俺はスキルレベルアップの書を怪盗化に使う。
「怪盗化レベル5の効果は……と。」
ステータス補正は敏捷、器用、魔力が30に上がり。
追加効果は……
「ん?これって……」
「おお!これで正体を打ち明けられますね!」
追加効果は、というか、追加されたのはフレーバーテキストの方だった。
『怪盗に相棒は付き物である。ゆえに、一人だけなら正体を打ち明けても問題ない』
つまり、一人までなら自分から正体を明かして良いって訳だが……
「正体とか明かしたくないんだが?」
ただの怪盗なら兎も角、ダブルGの称号がある時点で誰かに打ち明けるつもりなどさらさらない。
単純にバレても大丈夫というのならセーフティーになるから有り難いけど、自分からばらした場合のみじゃ無意味だ。
「正体不明の謎の怪盗がヒロインにだけそっと打ち明けて、とかカッコイイじゃありませんか」
「ヒロインなんてどこにいんだよ」
俺の側にいるのはフルチンの鳥だけである。
ヒロインのヒの字もねーっての。
まあ仮にいたとしても、今の評判で打ち明けるはずもない。
白い目で見られて終わるのは目に見えている。
「だいたい、正体をばらした相手がそれを漏らす可能性も考慮したら、自分からばらすのなんて絶対ありえねぇよ」
完全にリスクしかない。
映画とかだったら『危機を乗り越えるため相手に信じて貰う必要がある』的な展開もあるんだろうが……現実でそんな事情が発生する訳もないからな。
「ロマンがありませんねぇ」
「ダブルGから始まるロマンなどいらん」
まあハズレ効果だ。
もっと有用な奴が良かったが、まあ仕方ない。
ステータス補正が上がっただけ良しとしよう。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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