第74話 ハンデ
「まあ、このゲームの仕様上の制限とか。マスター自身の問題で、色々ハンデ抱えてますしね。しょうがない部分はありますよ」
「ハンデ?ハンデって何が?」
「例えばラッキースケベ……使います?いえ、使えますか?」
「あー、うん……まあそうだな」
相手を女にして胸を揉むスキルとか、他人の目がある場所で使える訳もない。
ただ胸を揉むだけでもあれだってのに、相手を女にまでするってバレたら、変態度がぐっと跳ね上がってしまう。
うん、使えない。
「でしょ?言っときますけど、ラッキースケベの有無で勝てる相手のラインは激変しますよ。バフデバフもそうですけど、相手の虚を突けたり、遠くにいる相手を目の前に引っ張ってこれる訳ですからね。遠距離タイプのシーカーからしたら、死ぬほど厄介なスキルですし」
遠距離攻撃なら、相手を使ってガードも出来るしな。
「あと、スカンクバスターも使えませんよね?」
「……使えないな」
人目のある場所で盛大に屁をこくとか、生き恥を晒したくはない。
「相手の動きを制限する効果はかなり有効ですからね。うまく使えば、デタラメに早いあのラッキースターの動きだって止めれますよ」
範囲攻撃だからな。
確かに、上手く使えばぶちかませるか。
まあ無計画に使ったら、高速で範囲外に逃げられるだろうけど。
「そう考えると、スカンクバスターって結構優秀なんだな」
「Cランクとは言えボスのレア枠で、しかも当たりに分類されるスキルですからね。マスターは使いたがりませんけど」
そりゃそうだろ。
ゴキブリ呼ばわりされてるだけでもあれなのに、その上オナラで敵と戦うとか……そんな戦いするために、俺はシーカーになった訳じゃないからな。
「以上、マスターの傲慢からくるハンデのコーナーでした」
「いや傲慢じゃなくて、恥を知ってるだけなんだが?」
「恥を抱えたままいい線行こうって考えてたその思考が、傲慢だって事ですよ。全てを投げ出そうともせずに、楽に勝とうなんて傲慢極まりありませんよ」
確かに言ってる事はもっともだ。
本当に勝ちたいなら、全てをかなぐり捨ててでも戦うべきだろう。
けど……
グーベルバトルは対戦ゲームだぞ?
報酬は勿論欲しいさ。
が、流石にゲームに勝つためだけに、誰が尊厳捨てるかよ。
「次は仕様上の制限をば。まず第一に、インベントリこと、ミステリアスホールが使えません。まあ正確には、使う意味がありません」
「ああ、そうだな。アイテム使えない訳だし」
装備の変更も出来ない。
因みに対戦時の装備は、ゲーム用の物を自分で選んで身に着ける感じだ。
「けど、それの何がハンデなんだ?」
「取り出して使う際のアクションが、インベントリの有無で全然違ってきますよ。他の人は装備に挟みこんでたり、袋に入れてるのを出したり外したりする必要がありますしね」
「ああ、まあ確かに素早く使えるな」
確かに、手間取れば妨害されるのは目に見えている。
そういう意味では、俺はアイテムを使いやすい訳か。
「それだけじゃありませんよ。そもそもアイテムありですと、戦術に大きな違いも出てきますから。例えば、飲めば一発でダメージが全快するポーションがあるとしましょう。当然、それは使わせたくないですよね。それありだと、実質耐久力が倍近くに跳ね上がる訳ですから」
「まあそうだな」
「なら、当然その妨害をしますよね?」
「そうだな」
「飲む瞬間を狙うのもいいですけど、当然相手もそこは警戒するはず。なので、そう簡単には妨害できません。でも妨害したい。この場合、マスターならどうします?」
勇気が質問を投げかけて来る。
飲む行動自体を妨害するのは難しいとして、それ以外で妨害ってなると……あっ!
「事前に相手のアイテムを壊しておく、か?」
「80点ですね。まあ壊すだけでも有効ですが、私ならもう一歩踏み込んで……相手から奪いますね」
勇気がにやりと口元を歪ませ、悪い顔をする。
確かに、その回答が満点なら、俺の壊すが80点なのも頷ける。
なにせ壊した場合、相手の耐久力が半減するだけだが、奪った場合、こっちのライフゲージが1本増えるに等しい訳だからな。
なので壊すのと奪うのでは、天と地ほど違ってくる。
天と地ほど違うのに、80点が納得の点なのか?
もちろんだ。
何故なら――
「奪うのは簡単じゃないだろ?」
―—奪うのは、壊すよりも確実にハードルは上がるから。
簡単に奪えるならもっと低い点数だったろうが、どう考えても難しいからな。
「まあ、簡単ではありませんね。相手が馬鹿じゃない限り、簡単に取れるような場所には身に着けないでしょうから。とは言え……あまりにも取り出すのが難しいような場所だと、そもそも使いたい時に使えませんし、絶対に奪えないって事はないかと」
取り出すのが簡単って事は、簡単に奪われるって事だ。
逆に奪うのが難しい場合は、大抵取り出すのが困難になる。
俺の様に、インベントリ系のスキルがない限りは。
「マスターの場合、相手からアイテムを奪うのに適したスキルもありますし」
「奪うのに適したスキル……スティールか?あれは魔物のアイテムを奪うだけだぞ?」
「スティールではありませんよ。怪盗には翻弄系のスキルが多いでしょ。ミステリアスの完全無敵や、ミスティックワイヤーなんかを駆使すればいいんです」
「ああ、なるほど……」
「そこにラッキースケベやスカンクバスターまで加われば、もはやマスターの魔の手から逃れる術はありませんよ。魔眼があるから、マジックアイテム類をどこに隠し持ってるとかも一目瞭然ですし。正に怪盗!まさに大泥棒!よ!盗むために生まれて来た怪盗ダブルG!」
「……」
恥も外聞もなく挑めば、何でも盗めるというのは分かったが、最後の方の煽りは全然褒められてる気がしないんだが?
「という、マスターの良さが一切生かせない訳なんですよね。このゲーム」
「まあそうだな」
「あー、あと、これも結構大きいんですが……神出鬼没も使えません」
「え?そうなのか?」
「マーキングできませんからね。仮に仮想空間にマーキングできてしまったら、マスター本人がそこに行ける様になってしまいますし。そりゃできませんよ」
「あー」
まあありもしない場所な訳だからな。
出来る方がおかしいか。
「マスターはあんまり戦闘では使いませんけど、上手く使ったらかなり有効なスキルですよ、神出鬼没は。敵の攻撃を躱しつつ背後に飛んで、滅多切りとかできますし」
「消費が重いからなぁ……」
待機時間もあり、消費もそこそこ。
なので、数を熟す雑魚戦ではぽんぽん使えず。
ボス戦も長期戦になるので消耗を避けたいのと、万一の逃走用に取っておいてあるので不使用。
基本、俺は神出鬼没を便利な移動手段としてしか使っていないんだよな。
「ま、という訳で……本来の力を発揮できないマスターでは、ゲームで無双する『俺つえぇ!』はまず無理ですね」
「あ、言い忘れてましたけど……このゲームのバトルに、私は参加できませんから」
「え?そうなのか?俺の召喚なのに?」
「流石の私も、仮想空間には飛んで行けませんから。仕様だと思ってあきらめてください」
勇気もだめなのか。
ぶっちゃけ、コイツがいるかいないかで戦果は激変する。
2対1で戦える上に、勇気の方が俺よりも強い訳だしな。
「まあ私が参加できていれば、きっとマスターはトップに輝けたんでしょうけど……他人の力を借りてトップになってもしょうがないでしょうから、自力で頑張ってくださいな」
勇気は俺が寿命を削って召喚してるんだから、全然他力って事はない気もするが……ま、仕様なら仕方ない。
諦めるしかないだろう。
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