第73話 陰の実力者には……
「まじか……」
『グーベルバトル』の細かな概要後、動画内で二人のシーカーによる対戦が披露された訳だが……とにかくやばかった。
対戦したのは、レベル98のスピードスターって格闘系のシーカーと、レベル97のアルベルトというウォーリア系の二人だ。
あ、因みに、グーベルバトルでは名前は自由に付けられるようになっている。
なので本名を馬鹿正直に名乗る必要はない。
姿かたちもカスタム可能だ。
それと、観戦者や対戦相手には、名前、レベル、クラスの系統――ウォーリア系やヒーラー系と言った感じの、ざっくりした物だけが表示される感じとなっている。
なので正確なクラスや、ユニークスキルの有無なんかは分からない。
まあ戦う姿を見れば、ある程度予測は出来るだろうけど。
「やばいな。スピードスターって奴……」
勝利したのはスピードスターの方だった。
しかも圧倒的な差で。
殆ど何やってるのか分からなかったぞ……
「これ……映像がバグってる訳じゃないよな?」
俺は勇気に尋ねる。
映像がおかしいんじゃないか?と。
そう思えるほど、スピードスターは異常だった。
「いくらなんでも速すぎだし……」
―—そう、異常なスピードだったのだ。
余りの速さに、対戦相手のアルベルトの方は何もできずに防戦一方で叩きのめされてしまう。
「いえ、特に不具合なんかは発生してませんよ。というかもしそうだったら、協会がそのまま上げる訳ないじゃないですか」
「まあ……そりゃそうか。だとしたら、なんちゅうスピードだよ」
本当にとんでもないスピードだった。
戦ってたのが俺でも、同じようにボコボコにされて終わっていた事だろう。
いや待てよ。俺の場合は99%カットと反射があるから、案外防御してるだけで勝てたりしないか?
「一応言っときますけど……今のマスターじゃ絶対勝てませんよ」
勇気が俺の考えを読んでそう言ってくる。
超能力者かよ、お前は。
「反射だけじゃ無理って事か?」
「無理ですね。というか、動画の中で反射できない攻撃普通にしてますし。スピードスターってシーカーは」
「え?そうなのか?」
「ええ。敵の防御力や、ダメージカット系のスキルを無視してダメージを与えるスキルを使ってましたよ」
生命力が魔物ほどじゃないシーカー相手なら、反射だけで俺最強じゃね?
とかちょっと思ってたけど、世の中それ程甘くない様だ。
いやまあ、登録して参加する気ないから別に対人能力は別にどうでもいいっちゃどうでもいいんだが……
俺が出たら本当は最強。
っていう、陰の実力者気分に浸れないのは非常に残念である。
自分で言うのもなんだけど、実は俺、最強厨だったりするからね。
「因みに……マスターが登録しても、その正体が協会にバレる事は絶対ありませんのでご安心ください」
「……そうなのか?」
「ええ。プライバシーの保護は絶対です」
勇気がそういうのならそうなんだろう。
こいつ、協会のトップと繋がってるっぽいし。
「まあ試合内容から、視聴者に怪盗GGが戦ってるってのは見抜かれる可能性がありますが……あくまでも怪盗が出てる事が分かるってだけですので、お気軽に登録しちゃってくださいな」
「むう……なら、参加した方がいいか」
報酬が魅力的なんだよな。
トップ層まで上がれなくても、ある程度まで上がればにっこり出来る程に。
「それがいいですね。まあまだレベルが低いので、高ランク帯に上がるのは難しいでしょうけど」
『グーベルバトル』は、一言で言うならランク戦だ。
成績に応じて毎月ランクが上下し、2か月に1度、ランクに見合った報酬が貰えるシステムになっている。
で、対戦は一対一で、十の位が同じレベルのやつと対戦する事に。
レベル50なら、レベル50から59までの範囲のシーカーとあたる感じだ。
これは、スキル習得レベルでの区切りだな。
多少のレベル差より、スキルの有無の方が強さへの影響は強い傾向にあるから、その辺りを配慮してのマッチングだと思われる。
その分け方をするって事は、レベルによる階級差があるのか?
いや、ないよ。
あくまでも対戦相手のレベル帯が絞られるだけで、ランクの判定は全て一緒くたになっている。
じゃあ低レベルでも高ランクになれるかも?
とか思うかもしれないが、それは無理だ。
なぜか?
対戦によって入手できるランキングポイントが、シーカーのレベルによって変わるからさ。
例えば、レベル50のシーカーが対戦に勝利した際に入る基本ポイントが50ポイントだとしよう。
レベル90なら、勝利時の基本ポイントは90といった感じになるのである。
まあそれ以外にも試合内容でポイントの増減はあるようだけど、基本のポイント差が大きい場合は、逆転は難しいと動画では説明されていた。
なのでランクを上げたいなら、レベル上げは必須という訳だ。
「ま、レベルは直ぐに上がるさ」
そう、何故なら俺は10倍速の男だから。
だから直ぐに高ランクへ駆けあがって……いやまあ、レベルは高ポイントを取るための下地でしかないので、同レベル帯で対戦に勝てなきゃ結局意味はない訳だが。
「なあ勇気。ぶっちゃけ……レベルさえ上がったら、俺っていい線行けると思う?」
レベルが上がった自分が、どの程度出来そうか尋ねてみた。
シーカーの動画を見たりはしてるけど、対人戦とか考えた事もないから、自分がどの程度戦えるのか全く想像もつかない。
……反射で嵌めごろせない相手がいるって、さっき分かったしな。
「うーん、難しいですねぇ。クラス、ユニークスキル、スキルブック等の追加スキル。考慮すべき点は多いですから。まあでも……並みのノーマルクラス相手ならまず負けないんじゃないですか?」
「いや俺、仮にもレアクラスだからね」
純粋な戦闘職ではない。
が、仮にもレアクラスだ。
しかも、確実に強スキルであると断言できる【幸運】まであるんだぞ。
これでノーマルクラスにすら勝てなかったら、俺どんだけ弱いんだよって話である。
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