第70話 新発売
「はぁ……しんど……」
ナイトを倒すのに、結局30分近くかかってしまった。
スピードはジャガーほどじゃなかったが、とにかく動きに隙が無い。
そのせいで明確な攻撃チャンスを簡単に掴ませてくれず、なかなか打ち込めなかったのだ。
後、とにかく生命力《HP》が凄かった。
勇気の生命力半減デバフありでこれだからな。
無しだったらこの倍かかってるとか、考えたくもない話だ。
「お疲れ様です。まあでも、努力に見合うだけの経験値は入ったんじゃないですか?」
「まあ、確かに……」
オリハルコンナイト一体に、ミスリルジャーガー3体を倒した結果、俺のレベルは上がっていた。
ブーストポーションのお陰で10倍状態——必要経験値10倍の取得経験値100倍なので――になってる事を加味しても、とんでもない爆速レベルアップと言えるだろう。
40分程度の成果としては破格中の破格である。
「レベルアップ。それに……スティールでオリハルコンも頂いたしな」
本日の確定レア枠は、オリハルコンナイトに使っている。
コイツから盗めるオリハルコンのお値段が、まあ素晴らしい事素晴らしい事。
単価5,000万とか、盗まないわけがない。
「にしても……ラッキースケベの2発目以降は、次から考えていかんとな」
ラッキースケベの虚をつく効果は、1発目は絶大だ。
が、2発目以降は魔物も対応してくる。
とは言え、ラーテルもジャガーも、即座に攻撃してくるような事はなかった。
なので、2発目ぐらいまではギリかく乱として使えたのだ。
だがナイトは違う。
あの野郎、転移した瞬間には槍の持ち方を変え、次の瞬間には近間にいる俺に
その切っ先を突き込んできやがった。
あれは焦った。
『え!?マジで!?2発目にして対応完璧すぎん!?』
ってなったからな。
「魔物もこのレベル帯になって来ると、学習の能力が半端ありませんからね」
「先に言っててくれよ。危うく直撃を喰らう所だったぞ」
あれをもし喰らってたら、死にはしなくとも確実に大ダメージを受けていたはずである。
反射があるから敵側も大ダメージで痛み分け?
うん、ならない。
たぶん、HPは――まあそんな項目はステータスにないけど、あるとしたら――軽く俺の100倍以上はあるだろうから、多少ダメージが通った程度だ。
「何事も経験ですよ。男は危機を乗り越えて強くなっていく物ですから」
「むう……正論だから何も言えん」
「ま、最悪戦闘不能になっても私が介護してあげますから。どーんとぶつかって行ってください。どーんと」
因みに、30分も戦っていたけど、勇気は2発目の束縛スキルを使っていない。
消費が重いためだ。
なので、再使用可能になったからって、バンバン使っていく訳には行かないのである。
なにせ勇気はレベルが35しかないからな。
当然SPもMPも少ない。
「さ、引き続き頑張ってください。頑張れば、今日中にあと2つはレベルを上げれるはずですよ」
「そうだな。気合を入れていこう」
この後、頑張って狩りして俺は追加でレベルを2つ上げる。
「はー、しんど。きつすぎるな」
ギリギリの戦いはとにかく消耗が激しい。
なので、今日はレベルが合計3つ上がった所で切り上げて来た。
まだ夕方なので、結構早めである。
「今までは何だかんだで、余裕のある相手を狩ってたからな」
それとは比べ物にならない疲労感。
特に精神的なものは大きい。
勇気というセーフティーがあるとはいえ、喰らうとくっそ痛いから攻撃とか喰らいたくないからな。
死ぬほど集中して戦ったっての。
「まあすぐに慣れますよ」
「だといいんだけど……シャワーを浴びて来る」
部屋に戻った俺はシャワーを浴び、出てからベッドに寝転がる。
そしてタブレットを手に取り立ち上げた。
「さて、何かニュースはないかな」
タブレットでシーカー関連のまとめサイトを開くと――
「ん?仮想現実対戦ゲーム?」
―—トップ記事に、仮想現実対戦ゲーム『グーベルバトル』という名があった。
「なんだそりゃ?」
タッチして記事の内容を読むと、どうやらシーカー協会が開発した、特殊なゲームが発売される様だった。
スキル、レベルを完全にコピーし、そのデータから本人と全く同じ能力のキャラクターを作成。
そしてそのキャラクターを使って、限りなく現実に近いシステムでシーカー同士戦えるという物である。
「シーカー協会って、こんな物を作ってたんだな」
しかも発売は来月頭辺りと書いてあった。
今まで記事にも一切なってなかったので、きっと極秘で開発されたのだろう。
「値段は300万か……」
若干お高い気もするが、今の俺なら余裕で買えはするな。
まあ買わないけど。
対戦とかしてもしょうがないし……
「いや、報酬があるのか。これ」
画面をスクロールしていくと、定期的に行われるイベントで優秀な成績を残したシーカーには報酬が出ると書いてあった。
「この報酬!?」
報酬一覧に目を通し、俺は驚いて上半身を起こす。
報酬には、シーカー協会のデータベースにないアイテム類がずらっと並んでいた。
奇跡の霊薬エリクサー。
ブーストポーション。
スキルレベルアップの書。
それ以外にも色々あるが、その最大の目玉は……ランクアップポーションだ。
「おやおや、大放出ですねぇ。まあ1回目の結果が相当ひどかったらしいですから、そのテコ入れですかね」
「1回目?」
勇気の意味不明な言葉に俺は聞き返す。
「おっと、私としたことが……禁則事項です。忘れてください」
勇気が自分の口の前に人差し指を立て、ウィンクした。
◇◆◇
「なにこれ!?」
私はネットの記事を見て驚きの声を上げる。
仮想現実対戦ゲーム『グーベルバトル』なんて物は、回帰前になかった。
私と伯父が回帰し、勇気が世界から抹消された事で、回帰前と今とでは違いが出るのは当然の事だ。
いわゆる、バタフライエフェクトという奴ね。
とは言え、物事には限度があるわ。
なにをどうしたら私達の影響で、謎のゲームがシーカー協会から発売されるというのか?
しかも変化して1年とちょっとしか経っていないのだ。
どう考えてもあり得ない変化である。
「この報酬……」
画面をスクロールで進めていき、イベントで放出されるアイテム類。
それは現段階では手に入れられない、少なくとも世間に知られていない物が大量に含まれていた。
「私の知らない物もあるし……協会が用意できる訳がない。間違いないわ。これはゲームマスターが干渉している」
回帰アイテム。
それを私達姉弟に渡したのは、他でもないゲームマスターであるGだ。
あの時……あれはダンジョン攻略を更に進める事を望んでいた。
「今のままじゃ、攻略は無理だと判断して大放出するって訳ね……」
どうしても攻略させたいのなら、何故回帰できるのを一人にしたのか?
勇気は戦いの天才だった。
正真正銘、本物の。
もし勇気が一緒に回帰していれば、どれほど心強かった事か。
「腹が立つ。腹が立つけど、怒ってもしょうがないわね。前向きに考えましょう。これでまた一歩、攻略に……勇気の復活に近付いたって」
エデンさんはデータを取られるとまずいから出場させられないけど、私と伯父なら、このゲームでも優秀な成績を叩き出す事は容易い。
現状では入手不能な優秀なアイテム類を早い段階で手に入れ、可能な限りパーティーを強化する。
そしてあのダンジョンをクリアするのだ。
待っててね、勇気。
私が必ず、貴方を蘇らせて見せるから。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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