第69話 Aランク
―—Aランクダンジョン『大地の怒り』。
マーキングを終えた俺は、Aランクダンジョンである『大地の怒り』での狩りを開始する。
『大地の怒り』は鉱物系の魔物が出る場所だ。
主にオリハルコンの名を持つモンスターと、ミスリルの名を持つ取り巻きをセットで相手にする事になる。
名前からも分かる通り、ここの魔物達はくっそ硬い。
しかも物理だけではなく魔法にも高い耐性を持っているため、この場所で魔物を狩るには、相当な火力が求められる事に。
まあ俺は防御力無視だから全く問題ないんだが、魔物もAランクになると生命力自体がぶっ飛んでくるので、俺の低い攻撃力だと防御を無視しても容易く狩れるかは怪しかった。
しかもこいつら、スピードもあるらしく――特に取り巻きのミスリルタイプに至っては、高速タイプだそうだ。
下手に攻撃を受けると99%カットの上からでも、大ダメージ必至の攻撃力まで備えてると来てる。
つまり、油断など到底できない強敵という訳だ。
雑魚共すら。
そんな魔物を相手にするのだから、当然――
「ちょっと緊張するな」
―—緊張する。
まあ最悪、逃げる手段があるから殺される様な事はないんだろうけど、それでもやっぱな。
「緊張しなくっても大丈夫ですよ。マスターには私がついてるんですから」
緊張する俺とは裏腹に、勇気が呑気にそう言ってくる。
「マスター一人なら棺桶に片足突っ込んだプレイになりますけど、私が居る以上、Aランクの魔物如き恐るるに足らずです」
「頼もしい限りだ」
「10年分の仕事はして見せますから。ご安心ください」
大量のバーサーカー・ラーテルとの戦いから生存できただけで、十分な働きとも言える。
ここから更にもりもり働いて貰えるのだから、寿命を10年引き換えにしたのも惜しくはない。
とは言え、ああいうイレギュラーがなかったら分かってても絶対召喚しなかっただろうけど……
価値はある。
価値はあるが。
何もないのに寿命を削ってってのは、流石にな。
「まあ頼りにしてるよ」
確定逃走があり、勇気もいる。
そう気軽に考える事にして、俺はダンジョンを進んで行く。
ああ、先に行っておくと……既に勇気は変身しており、更に女体化済みである。
「お、でましたよ」
30メートルほど先に、魔物の集団が姿を現した。
「ナイトか」
現れたのは槍を持った白銀の金属鎧姿の魔物、オリハルコンナイト。
そしてそのお供である、これまた青い金属の姿をしたミスリルジャガー3体だ。
ダンジョンの第1層にいる魔物のセットは2つあり、このナイトタイプと、アーチャータイプのどちらかになる。
因みに、アーチャータイプの取り巻きはタンクタイプのミスリルゴリラだ。
「おっと、来ますよ」
ナイトが手にした槍を投てきする構えを取った。
開幕の遠距離攻撃である。
シーカー協会のデータベースによると、下手な戦士クラスでも直撃すると即死しかねない威力に、更に、高い敏捷性を備えていなければ回避不能に近い速度と誘導能力が投てきにはあると載っている強力な攻撃だ。
俺はそれを――
「ラッキースケベ!」
ラッキースケベで躱す。
正確には、対象にしたナイトを盾にして防いだ、が正解だな。
「うぉっ!」
金属がぶつかり合う轟音。
そしてすさまじい衝撃に、俺はオリハルコンナイトごと吹きとばされてしまう。
腕いってぇ。
衝撃だけでこれとか、どんだけ高威力なんだよ。
「っと……」
吹き飛ばされた俺は、体制を立て直して着地する。
重さの差か、オリハルコンナイトの方が吹き飛ばされる距離は短かったので、間合いは5メートルほど開いている感じだ。
「受けるだけで痛いし、次からはミスティックで回避した方がよさそうだな」
因みに、オリハルコンナイトの胸はしっかり柔らかかった。
オリハルコンすらも柔らかくするラッキースケベ、襲るべしである。
「くっそはええな」
30メートル程、吹き飛ばされた事を考えるともっと離れていたはずのミスリルジャガーが3体。
そいつらがナイトの脇をすり抜け突っ込んでくる。
ほんの数秒でこの距離を詰めて来るその恐るべき速度よ。
流石Aランク。
さすAである。
俺はその動きに対応するべく、素早く腰を落として短剣を構えた。
が――
「縛!」
奴らは俺に辿り着く直前にその動きを止める。
その体に巻き付いた光のエネルギーに拘束されて。
―—勇気がラーテル戦で見せた、相手を拘束するスキルだ。
束縛されたのはジャガーだけではない。
ナイトの方もである。
「いつの間に触れたんだ!?」
この拘束スキルは、相手に触れないと使えないと聞いている。
ほんの短時間、この一連の流れで敵全部に触れる勇気のとんでもない腕前よ。
「拘束時間は1分ですから、今がボーナスタイムですよ。ボコボコにしちゃってください」
「おう!」
勇気のこの拘束スキルは、相手に触れるという前提条件こそあるものの、発動さえすれば1分間対象の動きを完全に止められる――動きだけではなく、スキルや魔法も使えない――という優れモノとなっている。
しかも複数同時に。
まあボス系には数秒で解除されてしまうらしいが、それでも間違いなく強スキルと言っていいだろう。
ただ欠点もあって、スキル発動中は勇気も一切動けなくなってしまう。
なので敵の数が多いと、気軽に発動させる事は出来なかったりする。
動けない勇気がボコボコにされてしまうからな。
後、再使用の待機時間が若干長めというのも欠点だな。
10分あるので、ポンポン使うには向かない。
あ、因みに、瞬間移動すれば触るのは楽勝。
とか思うかもしれないが、残念ながらそれは出来ない。
勇気の瞬間移動にはそれほど長くはないがクールタイムがあり、更に、移動後1秒間は攻撃やスキル発動の為の接触が出来ない制限があるからだ。
「ラッキースケベ!」
俺はジャガー3体にスキルをかけ、そして狂った様に攻撃を始める。
防御や立ち回りなど考える必要はないからな。
切って切って切りまくってやる。
「オラオラオラオラ!」
先にジャガーから処理するのは、こいつらがデタラメに素早いためだ。
俺の能力とスキル構成だと、こういったスピードタイプの方が処理がし辛いからな。
あと、【獣殺し】が利くから処理しやすいってのもある。
ミスリルジャガーは金属の体をしているが、動物タイプだ。
そのため、ラーテルから頂いたビーストキラーでダメージが50%増しになる。
「くっそ!こいつらタフすぎだろ!」
「マスター!時間ですよ!」
もう一発。
人間欲をかくとしっぺ返しが来るとはよくいった物である。
「グオゥ!」
勇気の拘束が解け、切りかかったジャガーが素早く爪を振るう。
それが俺の腕に当たり、皮膚が裂けて血が飛び散る。
くそ……来るのは見えたけど、攻撃中だったから回避が間に合わなかった。
「連続で喰らって堪るか!」
即座に2発目が飛んで来たが、俺はそれをクイックステップで躱す。
処理できたのはミスリルジャガー2体だけ。
1分間攻撃し放題でたった2体。
Aランクの魔物の打たれ強さは、ほぼCランクのボスレベルと言っていい。
腕へのダメージから、攻撃力もそれに匹敵する事が分かるだろう。
更に、ジャガーのスピードはラーテルすら大きく超えていると来てる。
Aランクマジ強ぇぇ……
「槍の相手をしときますんで!にゃんにゃんと戯れてていいですよ!」
「頼んだ!」
ニャンニャンこと、ミスリルジャガーが凄まじい勢いで攻撃してくる。
魔眼、そして勇気との訓練。
その内どちらかが欠けていただけでも、回避できなかったであろう激しい物だ。
コイツ1体で、ラーテル3体より攻撃が激しいな……
とは言え、逆に言えばその2つが揃っている以上、さっきみたいに欲張らなければ喰らう事はない。
俺はカードとミスリルダガーによる攻撃を、確実にジャガーに叩き込んでいく。
「よし!」
最後のミスリルジャガーを撃破。
5分ほど時間がかかってしまったが、相手のスピードと耐久力を考えれば致し方なしだ。
「勇気の方は……」
勇気の方を見ると――
「おりゃ!おりゃ!おりゃ!」
勇気はナイトの頭上で暴れていた。
ナイトの突きを躱しつつ、足蹴にしまくってる感じだ。
「カラスが頭上から人間に絡んでるみたいな構図だな」
まあ勇気は今、怪盗姿だが。
なんとなく、そんなイメージを連想させられる。
「あ、終わったんですか?じゃあさっさとこいつもやっつけてください。私は攻撃力今一ないんですから」
勇気のレベルは俺の半分しかない。
どういうステータス配分なのか聞いたら、セクハラ呼ばわりされて聞けなかったが、まあ筋力にはほとんど振っていないだろう事は分かる。
レベルにしては素早いので、きっと素早さ重視タイプだろう。
なのでその攻撃力はお察しだ。
「分かったよ。けどその前に――」
さっき受けた腕のダメージを、ポーションで回復させておく。
「チキンですねぇ」
「慎重と言え。あと……鳥がチキン呼ばわりするな」
油断はしない。
なにが起こるかわからないんだ。
万全の状態にしておかないと。
ダメージを回復させた俺は、最後に残ったナイトの処理にかかる。
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