第61話 犯罪
「どうだ!」
「甘いですよ」
渾身の突き。
それを勇気がいとも容易く躱してしまう。
「とう!」
「ぐあ!?」
回避から流れる様な動きで側面に回った勇気の肘打ちが、俺の顔面にヒットした。
メッチャクチャいてぇ。
幸運ガードは?
発動したうえでそんなに痛いのか?
幸運ガードは発動していない。
なので、ダメージがダイレクトに入ってくそ痛いのだ。
勇気は俺の幸運ガードを無効にする術を持っていた。
バリア無効というスキルだ。
バリア無効は、ダメージカット系のスキルの効果を無視する効果がある。
幸運ガードはもろこれに含まれる様で、勇気の攻撃には一切発動してくれない。
発動自体しないので、ダメージカットは元より、反射ダメージも発生しなかったりする。
勇気曰く。
『超高レベルの魔物の中には似た様なスキルを使ってく奴もいますんで、バリアがあるからって油断して喰らったら死にかねません。気を付けてください』
だそうだ。
気を付けなければならないので使う魔物を教えてくれと頼んでみたら、『ググれカス』って返って来た。
ネットで調べて出て来るわけが……とか思ったんだが、協会のデータベースに普通に載っててビックリ。
どうやらレベル90台のボスの中に、ダメージの軽減を無効にしてしまう攻撃スキルを持ってる奴がいる様だ。
「いつつつつ……もうちょい手加減してくれよ。死ぬほどいてぇじゃねぇか」
「それは駄目です。普段から痛みに慣れておかないと、いざって時に痛みで動けないって事態が発生しかねませんから。なので、痛みに慣れる訓練だと思ってください」
「やれやれ……正しいと分かってても、きっついなぁ」
シーカーとしての成長に必要な物である事は間違いないだろうが、それでもやはりきつく感じてしまう。
痛みを受けて喜ぶ趣味はないからな。
「頑張ってください。まあでも……かなり成長してきたと思いますよ」
「そうか?手合わせしてもボコられてバッカだから、あんまり成長した様には感じないんだけどな」
勇気を召喚してから既に半年ほど経つ。
頭を下げてから今日まで、俺は狩りは一切せず、延々彼の指導の下訓練を受けていた。
狩りを何故しなかったのか?
俺は10年以上我流で鍛えて来た。
その癖が体に染みついているため、矯正途中で中途半端に魔物と戦うと矯正の妨げになってしまうためだ。
だからこの半年間、俺は一切魔物と戦ってこなかった。
ああ、いや。
一切ってのは嘘か。
毎日、スライム先輩からブーストポーションは頂いてたからな。
まあそんなに使うかって気もするが、勇気が言うには、これはあればあるだけ良いそうなので集めておいて損はない。
後々売ったりもできる訳だしな。
なにせ取得経験値100倍だ。
きっと凄い値で売れるぞ。
まあもっとも、そのためには色々とを環境を整えないといけない訳だが……
「いやいや、だいぶ成長しましたよ。これくらいなら、天才とは呼べなくても秀才と呼べるレベルと言っていいでしょう」
「天才がそう断言してくれるんなら、俺もまあ捨てたもんじゃないって事か」
「ええ、ドーンと胸を張ってください。ラッキースケベの秀才、怪盗GGとして」
「そんな胸なら全く張りたくないんだが?」
因みに、訓練をしてるのは勇気の生み出した謎空間だ。
広さは以前バーサーカー・ラーテル共と戦った空間位ある。
「まあ少し休憩しましょうか。お昼時ですね」
休憩になったので、神出鬼没を使って自分の部屋に戻る。
あの空間には電気も電波も通ってないからな。
部屋に戻った俺はベッドに身を投げ出し、タブレットを手に取る。
因みに飯は勇気が作ってくれる。
コイツの飯がまた美味い事美味い事。
「なんか面白いニュースでもないかな」
ネット上で、怪盗ダブルGの話題はもう久しく見ていない。
なにせ、俺は半年活動してない訳だからな。
露出が無ければこの手の話題は風化していく物である。
人々の記憶から消えていくのはめでたい。
それだけでも、この半年間厳しい訓練を続けた甲斐があるというもの。
「ん?」
でかでかと1面を飾るネットニュースに、俺は眉を顰める。
「神凪メイデンが捕まったのか……」
神凪メイデン。
名前からも分かる通りハーフの女性で。
日本で活動している、たった二人しかいないヒーロークラスのシーカーだ。
「確か、愛生会って宗教のトップでもあるんだよな。そんな人間がこんな罪を犯すなんて……」
殺人教唆。
それが神凪メイデンの逮捕理由である。
以前起きたダンジョン内の大量殺人も、こいつが関わってる可能性が高いとも書かれている。
俺が危うく巻き込まれそうになった例のあれだ。
「捕まってくれてよかったんだろうけど……」
日本のトップシーカーの犯罪。
しかも凶悪犯罪となると、どうにも複雑な気分にならざるをえない。
「しかし教唆か……確かにそれならバレづらいよな」
―—シーカーは犯罪を犯しづらい。
超人なのに?
そう思うかもしれないが、実行できないという意味ではなく、してもバレる可能性が高いためだ。
なにせシーカーは、常に魔力を帯びているからな。
魔力を帯びると何故バレやすくなるのか?
簡単な事である。
行動した場所や触れた物に魔力の残痕が残るから、だ。
協会に登録した際、魔力の波長はデータベースに記録される。
そして事件現場や証拠物からそれが発見されたら……まあ真っ先に疑われる訳だ。
しかもレベルが高ければ高いほど魔力の残痕は長く残ると言われているので、高レベルであればあるほど、罪を犯した際にばれる確率が高くなると言われている。
因みに、魔法使いの方が魔力が高いから長く残る、とかそういうのはない。
ステータスの魔力は補正としてスキルや魔法を増幅させてるだけっぽいので、魔力自体には大きな差がないためだ。
強くなると誘拐されなくなるのも、この辺りが原因である。
低レベルのシーカーなら、覚醒してない人間でも簡単に拉致できるが、高レベルのシーカーになると、同じく高レベルのシーカーじゃないと捕らえるのは困難だ。
そしてシーカーが誘拐に関わった場合、その痕跡が残ってしまう。
だからシーカーのレベルが上がると、迂闊に誘拐なんかが出来なくなる訳である。
すーぐ捕まってしまうからな。
そもそも、協会に登録してなければ特定されないのでは?
それは無理だ。
登録してなければダンジョンに入れないから、レベルの上げようがない。
だからと言って、海外で上げて来ても一緒。
国への入国の際は、ゲートに付属されている魔力チェックで確認されるからな。
未申告だと直ぐばれる。
まあ何だかんだ、シーカーは歩く凶器な訳だからな。
そりゃ厳重にチェックされるさ。
「しかし分からんなぁ。富も名声も思いのままだったろうになぁ。なーんで犯罪に手を染めるのか」
超一流シーカーとしての人生を棒に振るうなど、俺からしたら考えられない事だ。
全く理解不能である。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。
 




