第60話 お願いします!
「映画の3DCG見せられた気分だな」
八咫烏の言う通り、宝箱を開けた5秒後に大爆発が起こって俺は元居た遺跡へと戻ってきた。
ダメージは一切ない。
「臨場感たっぷりでしたねー」
八咫烏が楽しそうに言う。
臨場感が凄すぎて俺は一瞬血の気が引いたが、それは黙っておく。
口にしたら絶対ヘタレって言われそうだから。
言っておくけど、俺はヘタレじゃないぞ?
本当にすっごい大迫力だったんだからな。
こう……炎と衝撃波が迫るさまはマジで圧巻だったから。
まあそんな事はどうでもいいか。
重要なのは手に入ったアイテムだ。
「ふむ……この鍵はいったいなんの鍵だ?」
宝箱から出てきたのは小さな鍵だった。
なんのアイテムか全くわからないので、俺は鑑定してその詳細を確認する。
『お宝ダンジョンの鍵。1/1。使用すると消える』
「お宝ダンジョンってなんだ?」
勇気に尋ねてみる。
コイツなら知ってる気がして。
名前から察するに、宝が手に入る場所だとは思うけど……
「文字通りの場所ですよ。まあただ、お宝が転がっているだけの場所ではないですけど」
まあやっぱりというか、当たり前の様に勇気は謎の情報を持っていた。
何故かを聞いても答えてはくれそうにないので、突っ込んで尋ねたりはしないが。
「転がってるだけじゃない?」
「そのダンジョン内では魔物が順次出てきて、倒すごとに美味しいアイテムが手に入るんですよ。因みに、魔物は倒せば倒すほど強くなっていって、後になればなるほど良いアイテムを落としてくれる感じです」
「ふむ……より良いアイテムを手に入れたければ、クリアするだけの強さが必要って訳か」
「そうなりますね。ああ、言っときますけど……今のマスターじゃ、全体の半分どころか3分の1も倒せるか怪しいですよ。もちろん、私込みの話です」
「3分の1って……お宝ダンジョンなのに、どんだけ難しいんだよ」
「逆にこう考えられますよね。報酬で出たにもかかわらずそれだけ難しいのなら、お宝はとんでもないレベルだ、って」
難易度が高い分、それだけ報酬が期待出来る訳か。
「ふむ……まあとりあえず、これは保留だな」
「それがいいですね。やっぱ男なら、完全制覇あるのみですよ」
男ならとかは置いといて、報酬の取りこぼしはしたくないからな。
しかも後半程報酬のグレードが上がるなら猶更だ。
「まあとは言え、今のままじゃレベル99まで上げても完全制覇は絶望的ですけどね」
「……え?そこまで難しいのか?」
「ええ、難しいですよ。あと、ぶっちゃけ……そう、ぶっちゃけなんですけど……マスターって、くっそ弱いじゃないですか?だからレベルを上げても、正直ちょっとって感じなんですよ。あ、これはここだけの話ですよ。マスターには内緒にしててください」
「………」
本人相手に話した事を、本人にチクるなとはこれ如何に。
トンチかな?
「面と向かって弱いって言われると、流石にプライドが傷つくな。お前が強いのは……まあ何となくわかるけど、俺もどう考えても強い方に分類されると思うんだが?」
俺のレベルで、バーサーカー・ラーテルを3体同時に相手出来るシーカーなんて数えるほどしかいないはず。
いや、ひょっとして俺が知らないだけで、ヒーロークラスとかはそれ位余裕なのか?
「クラスやスキルは優秀なんですけどねぇ。その辺りのポテンシャルは目を見張るものがあるんですけど……肝心のそれを扱う本人が残念なんですよ」
「これでも一応、結構長い事訓練して来たつもりなんだが……」
一流のシーカーを夢見て、10年以上訓練して来た。
なので身体能力は決して低くないはず。
高校時代の体育祭とかでも、運動部でもないのに大活躍してたし。
まあとなると、技術面か……
「マスターの戦い方、完全に我流でしょ?」
勇気がズバリ当てて来る。
ユニークスキル持ちの覚醒を周囲に伏せるためってのもあって、俺はシーカー専門の訓練所などには行っていない。
なので戦闘技術的な物は、こいつの言う通り全て我流だ。
今思えば、そういう所に行っててもよかったよな。
通ったからって、『この子供ユニークスキル持ちに違いない!』とはならんかっただろうし。
少々警戒しすぎた過去の自分が恨めしい。
「一応、動画とかを参考にしてたんだけどな……」
「動画を参考にしたって、一流の技術は絶対身に付きませんよ」
勇気が呆れたように首を振る。
まあそれは俺も何となく分かってはいた事だが、まあそこは――
「足りない分は実戦で補おうかと」
――そう、実践を超える訓練なんてないのだ。
実践しまくってるのに弱いって言われてる?
いやいや、俺はシーカーになってまだまだ日が浅い。
なので全然実践不足さ。
だから伸びしろの塊だよ、俺は。
そう、伸びしろの塊。
「戦いの中で強くなるってのは、定番中の定番ですからね。まあそれは否定しませんよ。でも……そういうのは基礎が出来てて、応用を戦いの中で学んでいくってのが肝なんですよ。ぶっちゃけ、マスターは基礎が全然できてません。その状態でもりもり強くなっていけるのは、漫画の主人公や私みたいな天才だけです。残念ですけど、マスターにそこまでの才能は……」
ふざけた言動が目立つ勇気だが、これに関しては正論パンチ感が凄い。
この足はチンコなんですよ、なんて言ってた奴にそれをされると屈辱感もひとしおである。
「まあでも、マスターはツイてます。何故なら――目の前にこれ程の天才が転がってるわけですからね!」
勇気がドヤ顔で(鳥の表情は分からないが、俺にはそう見えた)両羽根を広げる。
「お前が俺に稽古つけてくれるって事か?」
「その通り!真の一流のシーカーになりたいなら私のもとで修業あるのみです!!そして……強くなりさえすれば、怪盗に変身しなくても十分戦える様になりますよ。どうです?卒業したくありませんか?変態ダブルGの称号を」
「た、確かに……」
変身せずとも強シーカーとしてやっていけるのなら、その方が絶対良いに決まっている。
クラスアップポーションが手に入る保証もない以上、勇気の提案は魅力的だ。
ダブルG卒業。
そんな誘惑に抗える訳もない。
なので俺は――
「ご指導よろしくお願いします!」
―—勇気に勢いよく頭をさげた。
ゴキブリがカラスに屈した歴史的瞬間である。
まあ元々、カラスは普通にゴキブリの捕食者っぽいけど。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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