第5話 時給800円未満
朝一で電車に乗って移動。
俺は片道2時間ほどかけて移動し、ネットでお勧めルートとされる次のFランクダンジョンへと侵入する。
見た目はスライムダンジョンと同じ、ざ、洞窟って感じの見た目だ。
「さーて……」
最初に行ったスライムダンジョンには、俺以外の姿はなかった。
なにせ何もドロップしない上に、数時間でレベル5に上がる様な場所だったからな、そりゃ一度通過した人間は二度とこないので、人がいないのも無理からぬ話。
で、次のダンジョンも上げれるレベルは微妙なんだが、一応最低限のドロップがあるためか、ホールにはちらほらと人の姿があった。
まあ見た感じ、全員十代前半って感じだ。
早めに覚醒した奴らが、ちょっとした小遣い稼ぎに来てるって感じなのだろう。
因みに、ネットで確認した限り、普通にバイトした方が時給はいい程度にしか稼げない様だった。
それでも人が来るのは、時間や人付き合いに捕らわれずに済むからだろうと思われる。
とりあえず、ホールからは10個ぐらい通路が伸びてるので、そのうちの一つ。
開いている通路に俺は入った。
人のいない通路が分かるのか?
一応分かる。
スライムダンジョンは通路が色々ぐねっていたりはしたが、基本的に一直線だったのにたいし、このダンジョンは通路が色々と枝分かれしている感じだ。
とは言え、それほど広くはない。
そのため誰かが入る場合は、通路の入り口に何かわかりやすい物を置いておくのがマナーとなっている。
被りを防ぐ為に。
と、ネットに書いてある。
まあそんなの関係ねぇ!
的な奴らもいるだろうし、帰り際に回収し忘れる奴もいるだろうから、絶対じゃないだろうけど。
因みに、ダンジョン内に放置された物質は、動かない状態で24時間経つと消滅してしまうとの事。
なので死んだ場合、24時間以内に見つけて貰えないと遺体はダンジョンの中で消滅する事になってしまう。
勿論、身に着けている物や所持している物も纏めて。
そのため、万一の際の遺書なんかは持ち歩かず預けておく事が推奨されている。
時間制限があるので、誰かが運良く見つけてくれる確率がぐっと低くなってしまうためだ。
まあ一番いいのは死なない事な訳だけど、ある程度レベルの高いダンジョンになるとちょっとした油断やトラブルで命を落とす事もあるらしいので、絶対大丈夫とはいかないのだ。
ま、俺は遺書なんか残さないけどな。
両親はもういないし、残したいと思える様な友人も特にはいないからな。
伯父さんは論外だし。
それに何より、俺はユニークスキルの力で一流のシーカーに上り詰めてやるんだから、死んでたまるかっての。
「ガルルルル!」
通路をしばらく進むと、犬型の魔物が姿を現す。
レベル3の魔物、ベビーテンタクルドッグだ。
サイズは子犬程で、体の見た目は犬そのものの魔物である。
え?
小さくてかわいい犬を倒すのかだって?
安心してくれ。
ベビーテンタクルドッグは、背中から気持ち悪い紫色の触手が飛び出てるから。
なので体が犬でも、可哀そうって気持ちは微塵も湧いてこない。
マジキモいから。
「おっと」
ウニウニ動いているの触手の一本がしなったかと思うと、俺に向かってまるで鞭の様な動きで攻撃してきた。
俺はそれを後ろに下がって躱す。
たいしてパワーはないらしいが、コイツの触手には毒があるので気を付けないといけない。
ま、当たっても少しヒリヒリする程度らしいので、喰らうとやばいって程ではないみたいだが。
「グォウ!」
ベビーが唸り声をあげ、背中から生えた複数の触手で連続して攻撃してきた。
手数は多いが、ぶっちゃけ速度が遅いので躱すのは難しくない。
更に言うなら――
「よっと」
俺は手にした木刀で触手を切り払う。
すると払われた触手は千切れとび、地面に転がる。
――そう、この触手は物凄く脆いのだ。
こっちが攻撃を受けても千切れるほどに。
なので、こいつの基本的な処理方法は触手を全部ちぎってから、本体をぶん殴る。
である。
因みに、ネットでのおすすめ討伐方法は、盾で攻撃を受けて触手を全て散らしてからって戦法だ。
なのでホールに居た子達は、全員盾っぽい物を身に着けていた。
ま、俺は鍛えてるし、木刀さえあれば十分だからそんな物はいらないけど。
「ギャン!?」
木刀を数回払った所で触手がなくなったので、俺は魔物の頭に木刀を叩きつけて終わらせる。
「楽勝楽勝」
スライムより強いとはいえ、所詮はレベル3の雑魚だ。
一流を目指して訓練してきた俺の敵ではない。
「魔石が出たな」
ベビーテンタクルドッグの魔石ドロップ率は10%程。
で、シーカー協会でのここの魔石の買い取り額は400円だ。
確率的に、1時間に20匹狩れれば時給800円行くことになる訳だが……
「狩る時間は10秒もあれば十分だけど、索敵のための移動時間があるから20匹は厳しいだろうな」
そう考えると、時給は800円未満だ。
まあドロップが上振れればもっと行くのだろうが、当然下振れる事もあるので、お金を稼ぐのなら普通のバイトをした方が絶対いいだろう。
あ、因みに、俺がしてたバイトは日雇い系だ。
覚醒したら即やめる気だったので、普通のバイトをする訳にはいかなかったからな。
「ま、そんな事はどうでもいいか」
俺は次の得物を求め、ダンジョン奥へと進んで行く。
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