第57話 似てる
「さて、本番前にまず……マスターのお得意のセクハラを見せてもらいましょうかね」
「そんなもん、得意になった覚えはねぇ」
唐突な発言だが、その意図は理解した。
ラッキースケベは敵に掛ければ弱化のデバフになり、味方に掛けると強化のバフになる仕様だ。
こいつはラッキースケベで自分を強化しろと言っているのだろう。
「出会いがしらのお決まりパターンじゃないですか?これが得意技じゃなければなんだと言うのでしょうか?」
まあ確かに、出会いがしらかつ、全ての魔物にやってるのは確かだが……
「基本戦術だ。いやらしい言い方するな」
「へーい。ま、なんにせよお願いしますよ」
「分かった」
俺は八咫烏にラッキースケベを使用する。
そして俺の左手に柔らかい感触が――
「いやーん」
「変な声を出すな」
「いや、雰囲気出していこうかなと思いまして」
ボスモンスター共から逃げ回ってる状態で、敢えて出す雰囲気かよ。
コイツは本当に緊張感の欠片もない。
しかし……
魔物の時は気づかなかったが、人間(正確には人間ではないが)に掛けた場合、胸が膨らむだけじゃなく、体型も女性っぽくなるようだ。
後、声も女っぽい高めの感じに。
顔はどうだろうか?
マスクで見えないが、顔立ちも変わってる可能性はあるな。
それとこいつのこの声、最近どこかで聞いた事がある様な……あっ!そうだ。
変化したコイツの声、以前ダンジョンで出会った天魔輪廻にそっくりだ。
どういう事だ?
偶々か?
「さて……じゃあ着地しましょうか。魔物は10体いますから、7ー3で行きましょう」
八咫烏が7-3と言ってきた。
たぶん、それぞれが受け持つ魔物の数だろうと思われる。
まあ俺とこいつは初対面で、とても連携を取れるような間柄じゃないからな。
確かに、下手に纏まって行動するより分担して相対した方が効率は良いだろう。
けど――
「お前のレベルで3体も受け持てるのか?」
まあ俺も、7体相手にって考えるとあれなんだが……それでもレベルがこちらの半分、かつ、重複バフを受けていない八咫烏の方がきつい筈だ。
「なーに、訳の分からない事を言ってるんですか?7体は私の方ですよ」
「は?え?」
「マスターには、本体を含む3体の相手をして貰います」
「お前が7体も引き受けるのか!?いやいや、どう考えても無理だろ!」
「まあ自分で言うのもなんですけど……実は私は天才なんですよ」
「天才って……」
そういや天魔輪廻も自分を天才と言っていたな。
声が似ているせいか、彼女の事が思い出される。
「信じていいのか?」
「嘘は付きませんよぉ。まあ攻撃力はレベル相応に低いんで、倒すのは無理ですがね」
確かにこいつが嘘を吐く意味はない。
ただ性格が軽いんで、何となくノリで言ってる可能性が……いや、そうい言うのは疑い出したらきりがないか。
「分かった、信じる。頼んだぞ八咫烏」
「あいあいさー。あ、八咫烏は種族になるんで、出来れば名前で呼んでくださいな。名前は勇気です。まあ私の事を鑑定されたみたいですから、知ってるとは思いますけど」
鑑定は相手にばれる可能性があると、天魔輪廻に言われている。
どうやら八咫烏もそのようだ。
「じゃ、降りますよー」
八咫烏はそう告げると、急降下した。
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