第56話 アンノウン
「いやー、まさに地獄。絶体絶命って感じですねぇ」
召喚した八咫烏が周囲を見渡し、言葉の内容とは裏腹に呑気そうに言ってくる。
危機感ゼロ。
まあこいつは召喚されただけで、きっと死んでも大丈夫なんだろうな。
無性に腹立たしいが、まあそんな事で腹を立てても仕方ない。
「寿命10年も継ぎ込んだんだ。それ相応の働きをしてもらうぞ」
「らーじゃ!大船に乗ったつもりでお任せあれ!」
八咫烏が羽ばたいて上昇し、頭上で一回転したかと思うと俺の頭の上に着地する。
そして叫んだ。
「スキルリンク!」
と。
「なんだ!?」
その瞬間、視界がおかしくなる。
上手く説明できないが、これは――
「見えてるのは……エネルギーか?」
ラーテル達の全身に流れる光が見える。
俺はそれを、直感的に相手のエネルギーだと判断した。
「そんなもんです」
「これがスキルリンクって奴の効果か?」
まず間違いなく八咫烏の力だ。
そう思って奴を鑑定するが、八咫烏と名前以外の情報が非公開とだけしか表示されない。
非公開?
意味が分からない。
どういう事だ?
鑑定失敗なら兎も角、成功したうえでなんでこんな……
結局分かったのは、こいつが『勇気』という日本人っぽいで名前である事だけだ。
「スキルリンクは、マスターと私のスキルをそれぞれ1つずつ共有するスキルなんですよ。だからそれは、私の魔眼の効果です。っと、悠長に話してる場合じゃないですね」
スカンクバスターで怯んでいたラーテル達が動き出す。
『『『『『キシャアアアア!!』』』』
「【怪盗化】!」
「なっ!?」
八咫烏の姿が大きくなり、俺と全く同じ姿になる。
「いったでしょ?スキルを1つ共有してるって。じゃ――ゼログラヴィティ!」
「——っ!?」
八咫烏が身構える俺の手を掴んだかと思うと、そのまま俺を勢いよく頭上に飛びあがった。
ワイヤーでといった感じではない。
正真正銘の飛行である。
「お前飛べるのか!」
ラーテルがジャンプを駆使して攻撃して来ようとするが、それを八咫烏は寄せ付けない速度で飛び回る。
この様子だと、攻撃を喰らう心配はなさそうだ。
頼もしい。
「やだなぁ、カラスなんだから当たり前じゃないですか」
なるほど。
確かにカラスなら飛べて当たり前……
いやいやいや!
今お前、羽生えてないんだが?
完全に俺と同じ姿だし。
「あ、羽がないのにとか野暮な突込みはしないで下さいよ。それよりも……魔物共をよく見てください」
「魔物を?」
言われて、ジャンプで必死に追い縋ろうとしているラーテル達を凝視する。
「ん?これは……」
全身に流れるエネルギー。
その流れから、大まかなラーテルの動きが予想できた。
「見える!相手の動きがハッキリ見えるぞ!」
言ってみれば先読みだ。
ほんの僅かでも相手の先読みできれば、立ち回りはそれだけ楽になる。
「それだけですか?もーっとよく見てください」
「もっとよく?」
「ええ、細かいエネルギーの流れも見逃さずに……」
言われて更に目を凝らす。
「なんだ……細い糸みたいな……」
ラーテル達の体から、か細い、本当にか細いエネルギーの糸のような物が伸びている事に気づく。
そしてその糸は――
「一匹のラーテルに集まってる?」
「正解!」
「これって、ひょっとして……」
「本体ですね。残りのはたぶんコピー品ですよ」
「本体と、それ以外のコピー品……て事は……」
本来、呼び出せるボスは一体だ。
俺が想定外の行動で複数呼び出して数が増えた。
それらが全てイレギュラーによるコピー品で、その根本が本体に繋がってるんだとしたら……
「本体を倒せばあいつらも消える!」
勝機が見えた。
10体全てを処理するのはほぼ無理ゲーだったが、その内一匹だけを倒せばいいのなら……
「たぶんですけどね。あ、ジャーキー貰えます?私、レベルが低くてSP少なめなんで、ゼログラヴィティかけっぱなしは長時間維持できないんですよ」
「ほらよ」
取り出したジャーキーを手渡すと、八咫烏がそれを仮面に押し付けた。
一見意味不明な行動に見えるが、実はこの怪盗の鳥っぽい仮面、食べ物は素通りする様になっているのだ。
なので仮面にジャーキーが吸い込まれ、それを八咫烏がむしゃむしゃと食べる。
「じゃ……逃げ回るのもあれなんで、そろそろ反撃と行きましょうかね。げーーーーっぷ」
「……」
八咫烏が盛大にゲップする。
こいつといると、緊張感が吹っ飛びそうになってしまう。
いかんいかん、気を引き締めないと。
勝機が見えたとはいえ、大量のラーテルを相手にするという、圧倒的に不利なシチュエーションには変わりないのだから。
……本番はここからだ。
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