第47話 壁ドン
アルマジロ狩りを卒業した俺は、今現在カバを狩っていた。
正式名称はマシンガンヒポポタマス。
こいつは見た目はただのカバなのだが、小さな種の様な物をマシンガンの様に口から飛ばす魔物となっている。
遠距離からのこの攻撃が厄介極まりないので、普通ならソロで狩る様な魔物ではない。
だが、色々特殊な俺にとってはむしろかなり美味しい相手となっていた。
「ラッキースケベ!」
相手のマシンガンに合わせ、俺はラッキースケベを発動させた。
当然奴は俺の目の前に現れ、そして自分の吐き出した種を全部その背に受ける。
こういうのを何て言うんだろうな?
漁夫の利を得る?
オウンゴール?
まあどうでもいいか。
とにかく俺が言いたいのは……やわらかい。
である。
「ブァアアアアー」
いきなり場所が変わって、しかもなぜか二本足立ち。
その上いきなり背中に強い衝撃を受けたカバがパニックを起こして暴れまわった。
こいつ、遠距離攻撃は厄介だが、近距離戦はそれ程でもない。
なのでその動きを冷静に見切りつつ、俺はカウンターブローを連発してサクッと終わらせた。
「見た目の割りに生命力が低いんだよな、このカバ。サクサク狩れてホント助かるわ」
まあ防御力はそこそこ高いようだけど、重複クリティカルの効果で実質0だからな。
なので、遠距離攻撃を無視して近づきさえできれば、こうやっておいしく頂ける相手と化す訳だ。
【幸運】の効果がレベル6で30倍に上がったお陰で、常時5重になって火力が上がっているのも影響しているかな。
「にしても……今日はずいぶんと人が多いな」
鑑定によるマップは常に表示しており、光の点からダンジョン内の魔物とシーカーの存在を俺は常に確認できる状態だ。
カバは元から結構人気のある魔物なので――金銭効率が高いので――狩場にそこそこ人がいるのは普通の事なんだが、今日は明らかに昨日より人口密度が高い。
「別の狩場に……いやまあいいか」
人も多いが別に奪い合いになる程ではない。
そう思って俺は狩りを続けた。
訳だが……
「むぅ……」
人が多ければそれだけたのシーカーの側を通る事が多くなる。
それ自体は問題ないのだが、問題なのは――
「どいつもこいつも人をゴキブリ呼ばわりしやがって……」
そう、俺の姿を見た奴らのほぼ全てが、不名誉な人間違いをして来るのだ。
まあ気にしても仕方ないんだがな。
別人であると説明しては?
そう考えなくもないんだが、いかんせん俺、見るからに不審人物っぽい格好してるからな。
こんな場所で無駄に近づいてトラブルになったら困るだろ?
だから我慢しているのだ。
「まあ我慢するか……」
気にしても仕方ないので、その日は我慢して狩りを続けた。
「たく、腹立つなぁ」
迷惑系、まじ迷惑。
狩りを終え、風呂と食事を済ませてベッドに横たわる。
「俺をこんなに煩わせるとか、一体どんな奴だ」
迷惑系など気にする価値もないと思っていたが、こうも煩わされると話が変わって来る。
どんな奴は確かめてやろう。
そう思い、タブレットを使って検索を始める。
―—そしてある一つの動画に俺は辿り着いた。
「……」
ここまで調べて分かった事は――
ゴキブリは迷惑系配信者ではなかった事。
とある動画に映っているその姿から、あるシーカーがそう呼ばれるようになった事。
そしてその動画を投稿したチャンネルは、三人組の凄く可愛い子達。
……うん、見覚えのある顔だ。
動画を上げている三人組。
その顔を俺は知っていた。
別に知り合いという訳ではない。
一度ダンジョンでちらっと見ただけだった相手だが、三人とも美人だったから覚えていた訳だが……
「……」
物凄く嫌な気がしてならない。
いや、これまで拾い集めたピースから浮かび上がる全体像は、もはや俺に確信に近い物を与えていると言っていい。
だから迷う。
動画の再生ボタンをクリックすべきかどうか、それを迷って固まる。
「……」
このまま何も見なかった事にして、愚痴をこぼしながら狩りを続けるのも一つの手ではある。
何故なら、現実とは時に残酷な物だからだ。
知りさえしなければ、そう、知りさえしなければ無駄に傷つく事もないのだ。
だが、本当にそれでいいのだろうか?
ここまで来て、目をそらす事に意味はあるのか?
そもそも、俺の予想が当たっているとは限らない。
事実は小説よりも奇なり。
そんな言葉がある程だ。
蓋を開けてみたら『いやお前誰だよ!』ってなる可能性だって十分ある。
「見るか……」
奇跡とは、自ら歩みを進めた物だけが掴む事の出来るファンタジーである。
俺は自らの奇跡を信じ、再生ボタンをクリックした。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………俺じゃねーか!!」
奇跡は起きない。
現実とはかくも残酷な物である。
「ファーック!ホーリーシット!!くぁwせdrftgyふじこlp……あ、すいません」
怒りに発狂してたら、お隣さんから壁ドンされた。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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