第40話 葛藤
「ふっ!」
巨大な球体を躱しつつ、俺はそれに雷属性のカードを投げつける。
と同時に、飛んで来た火の玉をクイックステップで回避。
そして水属性のカードを、離れた位置にいる赤いアルマジロに向かって投げつけた。
ここはCランクダンジョン。
通称、動物ランドと言われる、動物系の魔物が出るダンジョンだ。
Cランクダンジョン以降は、Dランクまでとは比べ物にならない程ダンジョンが広くなる。
そのため分布している魔物の種類も多く、このダンジョンの適正レベルは、50から64とかなり広めとなっている。
因みにこのダンジョンは2階層。
1階層目は洞窟で(今ここ)。
ボスのいる2階層目は、草原っぽいフィールドタイプ。
で、ボスはそのフィールドの中央にある神殿が、戦闘エリアになっている感じだ。
「はぜろ!」
俺が手を振ると、突進してきた魔物――サイぐらいのサイズがあるハードアルマジロと、同じぐらいのサイズで、炎を飛ばして来たフレイムアルマジロの体に刺さっていたカードが炸裂する。
ハードアルマジロの方は雷が。
そしてフレイムアルマジロには、水の刃が襲い掛かる。
4重クリティカル!
防御力無視、かつ、ダメージ2倍攻撃だ。
今の俺の幸運は57まで上がっており、常にクアドラプルクリティカルが発動する状態となっていた。
「ま、そりゃ一発では沈まないよな」
雷で一瞬怯んだハードアルマジロが、煙を上げる体を再び丸めて突進してくる。
フレイムアルマジロの方も切り傷だらけだが、こちらに向かって炎弾を飛ばして来た。
Cランクの魔物はタフだ。
クアドラプルクリティカルでさえ当たり前のように耐えて来る。
「まあ、俺の攻撃力があんまり高くないってのもあるか」
怪盗はどう考えても、魔物とバチバチやり合うタイプではない。
素早い身のこなしで敵を翻弄し、隙をついて攻撃を加えていくタイプである。
なのでレアクラスであっても、それ程火力は高くないのだ。
それに加えて、幸運全振りのステータスだからな……
「っと!」
俺はアルマジロの突進と炎弾を躱し、それぞれにカードを投げつける。
魔力は1上げるたびに魔法の威力が5%程上昇する。
レベル50で得られるポイントは49なので、これを全て魔力につぎ込んだ場合の上昇量は245%。
100%上昇のクアドラプルクリティカルより倍率はずっと高い。
なので、防御無視部分の影響が大きくなる場所でなければ、魔力を上げた方がダメージは通るという訳である。
まあ別にアルマジロは柔らかくないんだが、硬いっていう程でもないからな。
「はぜろ!」
再び手を振り、カード効果を炸裂させる。
雷と水の刃がそれぞれのアルマジロを襲うが、それでも奴らは倒れない。
やはりタフだ。
「あと2発、いや、3発ぐらいはいりそうだ」
長期戦とまでは行かないが、Dランクダンジョン程サクサク狩りを進められそうにないな。
まあ事前情報からわかっていた事ではあるが。
「さくれつ!」
5発目。
そこでアルマジロ2種が同時に消滅する。
「処理に10セット使うのは、やっぱ消耗が激しいな」
特にMPの消耗が激しい。
「索敵は徒歩……いや、ビーフジャーキーが100%ドロップするから、それを使えばいいかな」
アルマジロのレアドロップは、回復アイテムのジャーキーだ。
使うとSPとMPが少量回復する。
売却価格は一つ3万円。
ドロップ率は10%程と高めで、【幸運】の効果でドロップ率が15倍ほどになっているので、俺が倒す分には100%ドロップする。
なので使い放題だ。
欠点があるとすれば、3万円の利益をじゃぶじゃぶ垂れ流す事だ。
お金を貯めるのなら、使わず索敵を徒歩にした方がたぶん金銭効率は高くなるだろう。
だが、俺はこれを使ってレベル上げを優先する。
何故か?
それは早く取りに行きたいからだ。
なにを?
もちろん、隠し通路にあるであろう宝箱を。
だ。
以前探索した際、Cランクダンジョンで隠し通路を一つ見つけている。
あ、場所はこのダンジョンじゃないぞ。
で、あの時点では能力的に回収不能と後回しにした訳だが、今は違う。
もうそれが手の届く位置にあるのだ。
「隠し通路の辺りは、レベル60の魔物が徘徊してる場所だからな。今でも行けそうだとは思うけど、念のためもうちょっとレベルを上げとかんと」
速く欲しい。
でももう少しレベルを上げたい。
そんな葛藤がぶつかり合った結果、出たのが――
金銭効率ちょっとぐらい度外視しても、レベリングを急ぐ。
―—である。
そもそも、俺の金銭効率はスティールと【幸運】による倍率と確変効果でずば抜けて高い訳だし、ちょっとぐらいレベリングを優先したって問題ないさ。
という訳でレベリングだ!
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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