第39話 誠実
「よし!レベル50!」
大きなカメを倒したところでレベルが上がり、Cランク達成である。
レベル40から上げるのにかかった日数は11日ほど。
狩りだけなら9日だな。
「だいぶかかってしまったな。ま、仕方ない」
30から40を1日で上げたのに対し、そこからレベルを50に上げるのには相当時間がかかってしまっている。
理由はいたって簡単。
レベルが上がれば上がる程、必要経験値がドバっと増えていくから。
まあ敵から貰える経験値も増えてはいくんだが、ぶっちゃけ、レベルアップ毎の増加量には全然追い付いていない。
なので必然、レベルが上がればが上がる程成長速度は鈍っていく。
まあCランクのダンジョンで狩りすれば、経験値が多いから相当短縮できただろうけど……
「Cランクになると、あからさまに魔物が強くなるっぽいからな」
魔物はレベル50を境に、もりっと、いや、もりもりっと強くなると言われている。
たぶんレアクラスになった【幸運】持ちの俺なら、やってやれなくもなかっただろうけど、俺はそれを選択肢から外している。
何故なら、調子に乗ると酷い目に合うとこの前経験したばかりだからだ。
ミスリルスライム先輩の指導で。
「まああれは完全なイレギュラーだし、ちょっとビビり過ぎな気もするけど……」
予想外の生きる死ぬの戦いを経験してしまうと、どうしても臆病になってしまう。
死がどうしても脳裏にちらついて。
なので安心安全の亀狩りに勤しんでいた訳である。
「よくないよなぁ。うん、よくない。今のままだとチキンまっしぐらだ。いっぺんどこかで気を引き締めなおさんと」
慎重である事は、別に悪い事ではない。
けど、臆病な一流シーカーなんて格好悪い事この上なしだ
しかも怪人みたいな姿でビビりとか、救いがないにもほどがある。
なのでどこかで修正せんと。
「スキルは……と」
レベルが上がったのでスキルを確認する。
あ、因みに、レベル40で覚えたスキルは神出鬼没だ。
分かりやすく一言で言うと、瞬間移動だな。
瞬間移動とか凄い?
まあ確かに凄いスキルではある。
とは言え、ポンポン瞬間移動して敵を翻弄する的な真似ができる訳ではない。
残念ながら。
概要としては、各ダンジョン、そしてダンジョン外に一か所マーキングを付け、そのマーキングした場所に自由に飛べるようになるって感じだ。
再使用時間は3分で、マーキングは一度つけると5分間は変更不可になっている。
ま、このスキルは完全に移動用だな。
戦闘で大活躍するような物ではない。
とは言え、家からダンジョンまでの行き帰りを一瞬で出来るのは大きかった。
正に時短の極み。
あと、鑑定で出したダンジョンマップからマーキングも出来るから、初めて行ったダンジョンでいきなり最奥スタートみたいなのも可能だったりする。
な?
便利だろ?
「レベル50は怪盗化のレベルが3か」
怪盗化のレベルが2から3に。
ステータス補正は、器用敏捷魔力がそれぞれ25に増加だ。
そして新たに効果が追加されている。
【|怪盗は誰にも捕らえられない《ミステリアス》】という効果が。
俺は詳細を知るため、鑑定を発動させる。
「効果は……物理干渉が出来なくなって、物理、魔法のダメージを完全無効。それと、その状態で対象や壁、床をすり抜けられる。か。怪盗っぽい効果だし、滅茶苦茶強力だな」
99%カットがあるとはいえ、1%でえらい目に合わないとも限らない。
そう考えると、この完全無敵は滅茶苦茶魅力的な効果だ。
「どれ……」
試しにミステリアスを発動させてみる。
「体が完全に消えるっぽいな」
自分の手と、手にしていた短剣が完全に見えなくなっていた。
透明化の効果もある様だ。
「これなら魔物に気づかれずに……って、滅茶苦茶消費が激しいな」
SPとMP。
その両方がゴリゴリ減っていくのが感じられる。
これはどうやら、連発したりするのは難しそうだ。
「強力な分、消耗が激しい感じか。これはここぞって時用だな」
まあ無敵になれるってだけで、十分価値はある。
「さて、じゃあ明日はクールタイムだから装備を買いに行って……で、明後日からはCランクダンジョンだな」
Cランクデビューだ。
「そういや……ミステリアスの、すり抜け効果ってボスエリアの結界とかも抜けられるんかね?」
ふと、そんな事を考える。
すり抜けられたとして、だからなんだ?
いやさあ、ボスからも逃げられるんなら……確変してレアアイテムだけ盗んでサヨナラバイバイできるかな、と。
「出来たら相当美味しい……いやでも、その状態のボスはどうなるんだって話になるか」
通常、ボスは倒すか侵入者が全滅するかしないと、エリアの封印が解けない仕様となっている。
当然、結界があると外から中に入ったりなんかも出来ない。
俺がお宝盗んで逃げたとして……結界がそのままだとしたら?
そうなると、半永久的に誰もボスを倒せなくなってしまうんじゃなかろうか?
いやまあ、俺は出入りできるから俺が倒せばいいんだろうけど、それが出来るならひったくりみたいな真似はしない訳で。
「ま、そもそも結界を超えられるかもわからない訳だし。余計な事はしない方がいいだろうな」
せっかく名案が浮かんだが、残念ながら不確定過ぎるのでこの案は塩漬けだ。
まあ仕方ない。
「いやでもポータルなら問題なく出入りは出来るんじゃ……いや、いかんいかん」
俺は首を振って余計な考えを追い出す。
一流のシーカーを目指そうと言うのに、あくどい事ばかり考えるのは宜しくない。
何事も誠実にいかんとな。
ボスの食い残しとか、行儀が悪すぎる。
でも俺って、怪盗なんだよなぁ……
怪盗ならそういう事も。
いやいやいや、怪盗はあくまでもクラスだ。
それを笠に着て、悪い事をするのは良くない。
うん、よくない。
よくない。
よくない……
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