第38話 聖騎士
「さて……どうしたもんか」
今日は休日だ。
何故なら、ブーストポーションのクールタイムだから。
流石に効率が100倍も違ってくるとなると、狩りする気にならねぇ。
ま、確変消化のためにスライムダンジョンにはいくんだけど、それ以外は未定だ。
「装備の購入は……まあまだいいよな」
99%カット頼りで暫くは問題ないだろう。
もう確定でダブルガードでるし。
なので中途半端な物には手を出さず、新調する際はお金をためてがっつりいい物を買う予定だ。
「動画でも見るか」
適当に動画を探す。
「お、聖の出てる動画があるじゃん。しかもダンジョンボス狩りの」
神木聖。
俺の元クラスメートで、今現在はレアクラスに覚醒して大手ギルドに在籍しているシーカーだ。
因みにギルドってのは、Cランク以上に存在しているボスを効率よく討伐するための集いと思って貰えばいい。
「ボス化したミスリルスライムを運よく狩れたとはいえ、ま、今の俺には無縁か。中ボスなら兎も角、ギルドに所属せずボス討伐とか正気の沙汰じゃないしな」
基本的にダンジョン最奥に陣取ってるボスは、数人程度の適正パーティ―での討伐は不可能となっている。
なので、だいたい数十人で狩るのがセオリーだ。
だが、突発でそんな大人数を集めてボス討伐ってのは、物凄く手間がかかる。
しかもその形式だとお互いの実力も正確に把握できず、また、連携も最低限の物となってしまう。
そうなると、当然の話だが成功率は低めにならざるを得ない。
「失敗イコール全員死亡だからな。真面な神経してりゃ、どこの誰とも分からんやつらとボス攻略は出来んわ。いくらドロップが激ウマでも。せめて人数制限がなけりゃ、数の暴力でって手もあるんだろうが」
ボスエリアごとに制限人数があるため、数によるごり押しというのは通用しない。
更に付け加えるなら、募集のレベル外(適正レベルより上)の奴が一人でも混ざっていると、ドロップ率が死んでしまう。
昔は野良で狩ってて、愉快犯的にそういう事する奴がちらほらいたらしい。
迷惑極まりない話である。
まあそういうトラブルなんかもあって、野良募集みたいな討伐はすぐ下火になった。
そしてそういった問題点を解決すべく立ち上げられたのが、ギルドシステムって訳だ。
ギルドがシーカーを管理し、そして適切な形でボス討伐を行う。
そうする事で安定してボスを狩れ、ウマウマできる。
そのためのシステムという訳だ。
ギルドは。
まあ今は、それ以外でも色々やってるっぽいけど。
投稿されている動画や、ファンミーティング的な物。
映像露出関係へのマネジメントなどなど。
ま、ソロの俺にはどれも全く関係ない話だ。
「討伐するボスはレベル66のCランクか」
聖はこの前70に上がったばかりなので、66はギリ適正って感じだな。
もう一個上がるとドロップ率の関係上、参加出来なくなる。
「おいおい。制限人数30人の所を、たった11人でやるのか」
いや、撮影してるって事は実質10人なのだろう。
戦いながら撮影できなくもないんだろうが、それだと映像が荒くなったり画角的に今一になったりする。
ギルド広報用と考えると、最低1人は撮影専用として動いていると考えるべきだ。
――って、感想欄の一番上に書いてあるし。
別に感想から見る派って訳じゃないぜ。
全画面表示で見てないので、感想がちょろっと見えてしまっただけだ。
「聖がメインタンカーを務めるんだな。まあでも当然か」
聖のクラスは聖騎士である。
レアの中でも当たりに分類され、アンデッドなどの不浄系の魔物にはデタラメに強いクラスだ。
え?
レアクラスに当たりハズレ何てあるのか?
もちろんある。
正確には当たりか大当たりか、な訳だが。
レアクラスの時点でノーマルクラスより優秀な訳だから、ハズレってのは存在しない。
とは言え、その中でもやはり優劣というものはある。
「ミノタウロスゾンビ、くっそでけぇな」
今回聖のギルド――タイタンギルドが討伐するのは、ミノタウロスゾンビだ。
正面に立つ、身長180はある聖が腰にまで届かないサイズ。
人間より太い筋質な腕に、人間なんざ丸のみ出来そうな口をした牛の顔。
ボスだけあってくっそデカい。
「おお、あの巨体の攻撃を真正面から受けてこゆるぎもしねぇ。さっすが聖騎士」
ミノタウロスは手に糞デカいバトルアックスを持っている。
それの全力スイングを、聖の全身が隠れるレベルのデカいタワーシールドで受け止めた。
その衝撃音たるや、まるいでダンプカー同士の正面衝突レベルだ。
……こんな攻撃、絶対喰らいたくないな。
幸運ガードの99%カットがあっても、もろに喰らったら一発KOされかねない。
それ位迫力のある攻撃である。
あと、物凄く早いスイングだったので、狙われたら回避し続けるのは難しそうだ。
いやまあ、こんな奴と単独で戦うつもりはないから特に問題はないんだが……
「取り巻き二匹ははもう一人のタンカーが受け持って引き離し、それをヒーラーが張り付いて補助。で、取り巻き無視してアタッカー連中はミノタウロスゾンビを叩く、と」
雑魚を倒しても再召喚されるだけなので、タンクにキープさせてその間にボスを叩く算段の様だ。
因みに編成は、タンカー2。
ヒーラー1。
シーフ1——スティール用。
重装の近接アタッカー3。
魔法使い2。
弓使い1。
と、撮影1だ。
「うんうん、こんなボス戦でもシーフはいるよなー」
ノーマル品でも全然金になるし、レア品盗めた日には大金星だもんな。
そりゃいれるよ。
まあどう頑張っても一人までだけど。
「にしても聖の奴、自己回復全然しないな。どんだけ硬いんだよ……あ、いや、ユニークスキルがあるから意図的に減らしてるのか」
聖騎士は耐久力だけではなく、聖属性の攻撃魔法やエンチャント。
それに回復魔法を扱う事が出来た。
唯一のヒーラーがサブタンクにはりつき状態なのはそのためだ。
自分で回復できるからな。
もちろん、攻撃の激しいボス相手だと話は変わって来るんだろうが。
因みに、聖騎士は魔力を上げる必要がほぼないと言われている。
信仰心というスキルがあり、その効果で、魔法関係に体力の半分がボーナスとして影響するためだ。
まあ要は体力が100なら、実質魔力+50みたいな。
なので、聖騎士は魔力を振る必要性がほぼない。
「聖のユニークスキル【根性】は、ダメージを受ければ受ける程ステータスが上がるからな」
ダメージを回復されると効果が薄れてしまうスキルだけど、常に前線でダメージを受け続けるタンカーにとっては最高ランクのスキルと言っていい物だ。
そりゃ大手ギルドから即座にスカウトされるって話である。
「おお、攻撃をはじき返した」
聖が盾で戦斧を受け、そしてそれを勢いよく弾いた。
さっきまでは受けるだけだったが、【根性】の効果でステータスがあがった影響だろう。
そしてそのまま、手にした剣で切りかかる。
「おいおい、もうほぼアタッカーだな」
巨体のミノタウロスゾンビの攻撃をはじき返しながら、聖は手にした剣で切りつける。
筋力は上げていない。
もしくは、上げていても少量だろうから、攻撃力はそれ程ないはずだ。
だが彼の剣には聖なる光が宿っているので、その状態でもアンデッド相手なら十分すぎる程のダメージが通っている様に見えた。
ステータスも【根性】でもりもり上がってるし、猶更。
「10分もかからず終わったな」
流石、参加メンバーが半分以上レアクラスだけある。
大した火力だ。
「俺がこれに参加してたら……」
遠くからチマチマとカードを投げるだけ。
そんな姿を想像する。
「うん、今一だな」
映えない。
その一言に尽きる。
怪盗はビジュアル的にインパクトがあるが、こういう大物狩りだとひたすら地味な動きになりそうだ。
いやまあ、そもそも参加できない訳だけど。
正体不明の人物をボス狩りに混ぜるとか、正気の沙汰じゃないからな。
俺のボス参加は絶望的である。
「やべぇ、今凄い事に気づいてしまった。一流シーカーになっても俺、正体明かせねぇじゃん」
別に栄光的な物が欲しい訳ではない。
いやもちろん、貰えるんなら貰いたいけども。
けどやっぱなんか寂しい。
成功しても、それを周りに一切アピールできないってのは。
「このままだと、自己満足だけで完結しないといけない訳か」
もうこの際、いっそ怪盗として有名になってみる?
「いやいやいや。それは流石に論外だろ。厨二病全開の奴として有名になんてなりたくないし」
悩ましい事である。
まあ今は余計な事は考えず、自分のレベル上げだけに集中するとしよう。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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