第30話 俺の勝ちだ!
「くそ……が……」
俺はここで死ぬ。
何もかも終わってしまう。
こんな所で。
俺の夢も、命も。
いや……まだだ!
「ふざけんな!こんな所で諦めて……諦めて堪るかよ!」
俺は右足を使って地面を這う。
目指す先は、俺の手から離れた魔力短剣だ。
「俺は……負けねぇ!俺はお前を倒す!」
地面に転がる短剣を、口で咥える。
そして右足を使って地面を這い、ミスリルスライムの元へと進む。
右足以外は動かないが、不思議と痛みは感じない。
アドレナリンが出まくって、感覚がマヒしている様だ。
「こりょいひへひでおわらへる(この一撃で終わらせる)」
ミスリルスライムの前まで這って進んだ俺は、背筋を使って上半身をそらす。
伏臥常態そらしのあれだ。
そして顔を横に傾け、口に加えた短剣の切っ先を――
「ひね!(死ね!)」
――ミスリルスライムめがけて突き刺す。
ダブルクリティカル!
加えた短剣がミスリルスライムに突き刺さる。
頼む!
死んでくれ!
「ぐっ!?」
足に軽い衝撃が走る。
ダブルガードが発動してくれた様だ。
――まだ俺の運は尽きていない。
再び、ミスリルスライムの元へと這って進む。
そして、同じように攻撃を仕掛ける。
「ひゃっひゃとひねひょ!(さっさと死ねよ!)」
ダブルクリティカル!
そしてダブルガード!
十連ガチャで、最高レアリティを複数体同時抜きした気分だ。
今の俺はついてる。
そう、最高についている。
11%2連続ってのは、マジでそう思わざるえない確率だ。
「ひょらあ!(おらあ!)」
再び短剣を突き刺す。
ダブルクリティカル!
頼む!
そろそろ死んでくれ!
いくらついてるとは言え、奇跡なんて物はそうそう続く物じゃない。
だからマジで死ね!
ダブルガード!
「ふひょが!ふひょが!ふひょが!(くそが!くそが!くそが!)」
完全に綱渡り状態。
それもいつ途切れるか自分でも全く予想の効かない。
生きた心地がしない。
だが、それでも俺は前に進むのみだ。
「へめぇのふぇいめいりょふがふひるのふぁさひか!ほへのふんふぁふひるのはさひか!ひょうやひょのひゃほう!(テメェの生命力が尽きるのが先か!俺の運が尽きるのが先か!勝負だこの野郎!)」
ダブルクリティカル!
「……」
反撃は……こない。
視線の先で、短剣に貫かれたミスリルスライムがしぼんで消えていく。
その姿を見届け、俺は口に咥えてた短剣を地面に落とした。
「か、かった……」
俺の勝ちだ。
運が味方してくれた。
もはやこの一言に尽きる戦いだった。
だが――
「俺の……勝ちだ!!!」
運だろうが何だろうが、俺は生き延びた!
そう、生き延びたのだ!
生き延びたもん勝ちだ!
「へ、へへ……幸運の流れが来てたお陰か、ちゃんとレアドロップも出てやがる」
最高の気分だ。
「あ……ぐ……つぅぅ……」
興奮して忘れていた痛みが、ほっとした事でぶり返して来た。
「エクスポーション……もったいねぇけど……」
とてもじゃないが、この状態でダンジョンの脱出は無理だ。
常備しているポーションもこの様では取り出せそうにないし、そもそも回復量が足りない可能性が高い。
数千万円もする物を使うのは少々躊躇われるが、俺は瓶を口に咥え、そのまま歯で噛み砕いた。
まあ、命あっての物種だからな。
え?
破片で口の中を怪我する?
問題ない。
その怪我もポーションで回復するから。
「ふう……」
傷が一気に回復し、痛みが消える。
流石最高級ポーション。
「ぺっぺっ」
俺は口の中にあったポーション瓶の破片を吐き出し、立ち上がった。
当然その手には、戦利品であるクラスアップポーションが握られている。
「さて……さてさてさて……」
命を賭けた激闘を制し、手に入れたレアアイテム。
その効果や如何に。
俺は鑑定を発動させる。
想像通りの効果だと良いんだけど……
「お、おおおおおお!」
使用すればクラスがより上位の物へと変化する。
その説明文に俺は歓喜した。
「だい!しょう!り!」
まさにヴィクトリーだ。
世界が俺に最高のシーカーになれと、そう言っているとしか思えない。
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