第26話 防御力
「おお、全然痛くねぇ」
装備を新調した俺は、Dランクダンジョンへとやって来ていた。
スライムの出るダンジョンだ。
出て来るスライムは、レベル34のウッドスライム。
レベル35のストーンスライム。
レベル36のアイアンスライム。
そしてレベル49のミスリルスライムである。
え?
ミスリルスライムだけ異常にレベルが高くないか?
ああ、まあこいつは特別だ。
殆ど遭遇しない上に、出会ったら即逃げだすタイプの魔物だからな。
いわゆるボーナスモンスターって奴である。
ドロップと経験値が破格らしい。
で、今戦ってるのが一番弱いウッドスライムだ。
サイズは子犬くらい。
木の枝が重なってるみたいな姿だが、スライムなので結構うにょうにょ動く。
どういう構造してるのか謎である。
まあ魔物の構造なんて気にしても仕方ないが。
それ言い出したら、突っ込みどころだらけだからな。
魔物なんて。
気にしたら負けである。
で、コイツの特徴は素早い動き。
敏捷アップのスキルを習得した今の俺でも、攻撃を完全に躱し切るのが難しい程早い。
まあ代わりに攻撃力が低いので、防具さえしっかりしていれば大した脅威にならない感じだが。
実際、今、突進を思いっきり喰らってしまったが、殆ど痛みはなかった。
なのでゲイブスーツと幸運ガードさえあれば、こいつは敵ではない。
因みに、俺の幸運ガードの発動率は既に100%を超えているので、今や常時ダメージ90%カットである。
「とは言え、楽勝とはいかねぇか」
高速で跳ねまくるウッドスライム。
攻撃を回避しきれない程早いって事は、攻撃を当てるのも難しいって事である。
「まあダメージないんなら、防御無視して攻撃だけに集中すればいいか」
躱しながら攻撃するから難しいのであって、相手の攻撃をガン無視するなら当てるのはそう難しくないはずだ。
なので戦闘スタイルを切り替え、とにかく突っ込んで来たところに攻撃を合わせていく。
「やっぱ弱点つけると楽だな」
3回ほど切ったところで、ウッドスライムが消滅した。
こいつは火属性が弱点なので、俺の炎属性と宿した魔力短剣がぶっ刺さる感じだ。
「ウッドスライムは楽勝だな」
入口付近はウッドスライムゾーンになっているので、それを捌きながら俺は奥へと進
「ストーンスライムか」
1時間程狩りながら進んだところで、石の塊のようなスライムが姿を現した。
こいつも石っぽい見た目に反して、うにょうにょと液体みたいな動きをしている。
こいつはウッドスライム程素早くはないようだが、その分防御力と攻撃力が上がっているとの事。
特に防御力の上昇は顕著らしい。
あと、ウッドスライムと違って別に火属性が弱点じゃないってのと、石を飛ばしてくる遠距離攻撃をしてくる様だ。
「ぷっ!」
早速石を飛ばして来た。
『こいつの攻撃も一度喰らってみるか』
相手の攻撃力が分かった方が戦いやすくなる。
そんな通っぽい考えが頭を過り、俺はそれをあえて躱さず腕でガードする。
「あいったぁ!」
メッチャクチャ痛い。
幸運ガードはしっかり発動してるのにこの痛み。
こりゃウッドスライムの時の様に攻撃無視なんて、とてもじゃないが無理だ。
そんな事してたら死んでしまう。
「動きがウッドスライムより遅いのが救いだな。慎重に行こう」
再び飛んで来た石を躱して接近する。
次はスライムの体当たりだ。
それを躱しつつ、俺はダガーで切り裂く。
「あ、死んだ……」
ダブルクリティカルが出たと思ったら、ストーンスライムはそのまま消滅した。
「思った以上にHP低いみたいだな」
適正レベルぐらいだと硬いので非常に苦労するとかデータベースには書いてあったが、防御力無視できたら驚くほどあっさりである。
まあ体は子犬サイズだったし、防御力無視して大ぶりのナイフで切り裂かれたらそりゃ死ぬわな。
「拍子抜け……いや、それだけクリティカルが凄いって事だな」
攻撃当てやすいし、ダブルクリティカル出たら一発だし、攻撃が痛い点を除けばコイツの方がウッドスライムより倒しやすいな。
「レベル上がったし幸運に振っとこうか」
レベルが29になったので幸運に振っておく。
これで幸運は36。
あと4レベル上げれば【幸運】のレベルが上がるだろうから楽しみだ。
「しかし……やっぱ、シーフって柔らかいよな。分かってた事ではあるけど」
インナーとは言えCランクレベルの装備であるゲイブスーツに、幸運ガードのダメージ90%まで合わせて普通にダメージ通ってるからな。
袖をめくって腕を確かめると痣になっていた。
この様子だと、幸運ガードがなかったら腕がへし折れていた事は想像に難くない。
因みに防御力は――
装備。
レベルによる補正。
筋力による微増(物理だけ)。
魔力による微増(魔法だけ)。
体力による上昇。
そこにスキルによる補正で決まると言われている。
シーフは敏捷性と器用さが高い反面、筋力と体力は低い。
特に体力は魔法使い並みなので、防御力はお察しである。
しかも防御力事態を上げるスキルもなく、魔法使いの様に魔法によるバリアー的な物もないので、体力を上げないと喰らった時のダメージがとにかく酷いのだ。
「まあ普通は敏捷性を上げて、『当たらなければどうという事はない』ごっこするもんだけど……」
こちとら幸運極ぶりだ。
敏捷に一たりとも追加で振ってない身で、そんな真似ができる訳もない。
「金をガンガン稼いで、良い防具手に入れるしかないよな。耐久力の問題は」
幸運65でダブルガードの発動率が100%になれば、99%カットなので全然違ってくるだろう。
が、それは先が長すぎる。
今の倍近いレベルが必要だ。
かと言って、筋力、体力などにステータスボーナスを振る余裕もない。
なので確実な防御力向上は、装備を良くするという方法だけである。
「もしくはスキルブックか……」
低ランクダンジョンで出た未鑑定品なら、そこそこの値段で買える。
幸い俺には幸運鑑定があるので、ハズレなら即売りに出して次を探すとやっていけば、少ないコストで目当てのスキルを……
「ああ、駄目だ。そんな事したら、俺が鑑定を持ってますよって宣伝する事になってしまう」
買った物を即売りに出すとか、鑑定して中身が気に入らなかったから売りに出しましたって言ってる様なもんだからな。
因みに、その手のアイテムをシーカー協会を介さにず売買するのは基本犯罪なので、こっそりネット販売するとかは難しい。
少なくとも何の伝手もない俺には無理だ。
まあ出来てもやらないけど。
そういう犯罪行為をするのは、俺を生み育ててくれた両親に申し訳が立たない。
「ま、頑張ってレベルを上げつつ金を溜めよう。あ、いやまてよ……別に幸運は65もいらないか」
よくよく考えたら、【幸運】のレベルが4に上がれば倍率が上がるのだ。
40で上がると仮定して、その時点で99%カット達成である。
「上手く行けば、あと4レベルで防御力が大幅アップする事になるな。ん……いや待てよ、よくよく考えたら計算間違ってるか」
40だと160%にしかならない事に気づく。
なのでダブルガード100%は幸運50になってからだ。
なんで間違ったんだ?
まあいいか。
「まあでも、レベル43ならそんなに遠くないよな。そしてそこからは無敵……にはならんか」
Dランク位なら99%カットで安心できるけど、更に高ランクのダンジョンへ行くようになれば話は変わって来る。
ダブルガードの上からでも当たり前の様に大ダメージを与えて来る魔物が、その内きっと出て来るだろう。
なにせシーフは、特に俺は防御力が極端に低い訳だからな。
「結局、防具に力を入れないとな」
金を稼いで良い防具を買う。
それは必須事項のままだ。
「ま……幸い俺の稼ぎ能力は他とは段違いだから、結構楽勝だとは思うけど」
なにせ、ドロップ率とレア抽選が5倍だからな。
ガンガン稼いでガンガン装備を更新していけるはず。
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