第129話 討伐失敗(S)
中国にある、とある研究施設のホール。
そこには、人の入るカプセル型の装置が並んでいた。
その数は100にも及び、そのうち半数が稼働している状態だ。
このカプセルは、中にいるシーカーの完璧な分身を生み出す装置となっている。
そんな事が可能なのか?
可能だ。
但し、このシステムは0から生み出された訳ではない。
コピーを生み出すあるシーカーのユニークスキル。
それを利用して生み出されたのが、このシステムである。
個人の持つユニークスキル。
それを強制的に増幅し、更に、同じように強制増幅させられた複数のシーカーのユニークスキルを合わせる事で、この仕組みは完成している。
それは容易な事ではなく。
結果として、ユニークスキルを所持していたシーカー達は廃人と化し、ただただスキルを吐き出す器となってしまっていた。
そんな非人道的な装置。
それがこのシステムの正体である。
「くそっ……」
「無理だ……あんなの倒せっこねぇぜ」
「防御重視じゃ話にならねぇ」
100個中、稼働していた49個のカプセルが次々と開いていく。
「どういった感じだったの?」
赤毛の女性が、カプセルから出て来た一人。
糸目の男、チン・ワンユーに確認する。
レベル97のSランクボス。
偉大なる母鼠と戦った、その成果のほどを。
「第二フェーズの途中で、第三フェーズが始まってしまいました」
「あら、じゃあやっぱり火力不足になった訳ね。ならチームの防御力を減らして、もう少し火力アタッカーを増やした方がよさそうね」
「正直、そういう次元ではないかと。圧倒的な総合力不足としか言いようがありません、根本的な戦力の見直しが必要でしょう」
グレートマザーラットの討伐は、既に12回行われている。
当然だがその全てが失敗に終わっており、現状では、クリアの見込みはほぼ無い状態となっていた。
「チンの言う通りだ。バランスや連携どうこうの話じゃねぇ。本当に死なないとは言え、毎回殺される身にもなって欲しいもんだ。クリアできる芽があるってんなら兎も角よ」
チンの横のカプセルから出て来た、大柄な男が彼の言葉に同調する。
「貴方は死刑になってた身でしょ。死ぬような目に遭っても、待遇自体は最高級のものを用意してるんだから我慢して欲しいわね」
男の名はイワンコフ・ゲイラー。
ロシアの有名シーカーで、母国で政府高官を殺して逃げだした所を中国政府に拾われ、今現在、不死身の軍団プロジェクトに参加している身だ。
「まったく……天下のイワンコフ様が落ちぶれたもんだぜ。頭に変なチップまで入れられちまってよ」
「まあ、生きて贅沢が出来ているだけでも良しとしませんとね」
「まあそうだが……けど、どう考えても今のままじゃクリアは無理だぜ」
参加している49人は全員レベル90後半。
クラスもほぼ全てがレア以上で、ユニークスキル持ちも多数おり、中にはヒーロークラスも混ざっていた。
装備も充実しており、現状、ギルド規模で言うなら世界最高峰レベルと言って良いだろう。
だがそれでも、レベル97のボスにはまるで届かないのが実情だった。
「そうみたいねぇ……けど、お偉いさん方が聞きたいのは出来ませんじゃなくって、討伐しましたの一言よ。それ以外は聞き入れてくれないでしょうね」
中国はレベル97ボスの、世界初討伐の栄誉を手に入れようとしていた。
そのためならば、下の人間がどれほど苦労しようともかえりみる事はない。
「やれやれ……無理強いさせるなら、せめてワン・リューミンぐらい参加させてくれよな」
ワン・リューミン。
中国最強のシーカーと呼ばれる男だ。
グーベルバトルにおいても、竜崎守や天魔輪廻と同じ、3人しかいないレジェンドランクに登録されている。
「あいつがいりゃ、少しは勝ちの芽が出るんだからよ」
「難しいでしょうね。我々とは根本的に立場が違いますから」
イワンコフの言葉に、チンが首を振って答える。
「ちっ、これだから偉い連中は嫌いなんだよ」
「上が諦めるか……私達が奇跡を起こして討伐するか。それまでは、続く事でしょう」
「勘弁して欲しいぜ」
チンの言葉にイワンコフが顔を顰める。
冗談のやり取り的なものではなく、本当に嫌そうに。
「まあもしくは……誰かがグレートマザーラットを討伐するか。ですかね」
初討伐だからこそ、中国は拘るのだ。
他の誰かが倒してしまったのなら、討伐にこだわる理由はなくなる。
「おいおい、不死身って条件の俺達でこの様なんだぜ。生身であれを討伐できる奴らなんざいる訳ないだろ」
チンの言葉をイワンコフが鼻で笑う。
今の自分達に出来ない事を、一発勝負で達成する者達などいるはずがない。
それが彼の、いや、この場にいるグレートマザーラットの強さを身をもって経験した者達の共通の判断と言って良いだろう。
「まあ、確かに現実的ではありませんね」
チンはそう言いつつも、脳裏にある男の姿が浮かぶ。
かつて自分が潜入し、メンバーを引き抜こうとしたキャッスルギルドの脱退劇に於いて、最後の最後で現れ圧倒的な力でねじ伏せた男。
竜崎守の姿が。
竜崎守は天魔輪廻と共に、優れたパーティーメンバーを集めていると聞く。
流石に1パーティーでは無理でも、やがて彼らがギルドを作り、本格的に人を集め出せばひょっとしたら。
そんな思いがチン・ワンユーの脳裏に過る。
「ありえない話ではない……か」
「ん?なんか言ったか」
「ああ、気にしないで下さい。ちょっとした独り言ですので。じゃあ私は報告書の作成に向かいますね」
たられば話を考えても仕方ない。
そう考え、チンは余計な考えは捨て、職務を進めるのだった。
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