第12話 宝箱
隠し通路は真っすぐ伸びている。
奥に入って少し進んだところで行き止まりになっており、そこには――
「おお!宝箱」
――金色の宝箱があった。
「密かに期待してたんだけど、本当にあるとは。やっぱ隠し通路って言ったら宝箱だよな」
ダンジョンには宝箱がある。
宝箱は中身を取ると消え、一定時間経過後、またどこかに出現すると言われていた。
なので場所を覚えて定期的に回収する様な真似は出来ない。
因みに、宝箱はCランク以上のダンジョンでしか出ないと言われているので、この発見はその常識を覆す物と言えるだろう。
「まあ隠し扉の先にある宝箱だから、普通の宝箱と一緒くたにはできないけど。なんにせよ……宝箱だ!初宝箱ゲットだぜ!」
俺は喜び勇んで宝箱に手を付けようとして、だがその直前で手を止める。
ある事を思い出したからだ。
「確か宝箱は、ミミック系の魔物が化けてる事があるんだよな」
そう、魔物が化けている事があるのだ。
なので迂闊に開けてしまうと、不意打ちで大ダメージ何て事もありえた。
「こんなランクのダンジョンでそんな魔物が出るとは到底思えないけど、万一って事があるからな。よし、鑑定だ」
俺には幸運鑑定がある。
油断せず、きっちり鑑定で確認するとしよう。
数回鑑定して、鑑定が成功する。
「おおう……」
その内容に、俺は『うわぁ……』という感情を抱く。
魔物ではなかったが……
「トラップて……」
宝箱はトラップだった。
概要に、開けるとトラップが作動すると思いっきり書いてある。
「ダンジョンにトラップがあるなんて聞いた事もないけど、隠し通路限定って事かねぇ」
他のダンジョンに隠し通路があるかどうかは分からないが、それらが全て敵の攻撃が当たったら開通するのが基本だとしたら、まだ誰も見つけていなくてもおかしくはない。
俺の時だって、偶々すぐ後ろで遠距離攻撃する魔物が湧いたから見つかった感じだしな。
「開けたら30秒でぺしゃんこか」
鑑定では、どういったトラップが発動するかまで書いてある。
この宝箱を開けると通路の両サイドが挟み込む形で動き、中にいる者を圧殺するタイプのトラップだ。
そうなるまでの時間も分かっていて、30秒の間にこの通路から抜け出せなければ……まあ死ぬ事になるんだろうと思われる。
「まあ、迷う必要はないか」
この隠し通路、走れば20秒とかからない距離だ。
これがトラップを知らない状況でいきなり作動したら、まごついている間に逃げ出す時間が足りなくなるって事もあるのだろうが、俺は鑑定でその事実をしってしまっている。
宝箱を開けて中身を回収。
そこから逃げだすのに30秒という猶予は、十分すぎる時間だ。
「まあでも、一応確認しとくか」
スマホのタイマーをオンにして、宝箱の中身を取る動きからの、出口までダッシュの時間を図る。
20秒程だ。
「うん、大丈夫だ」
という訳で、俺は戻って宝箱を開ける。
開けた瞬間何かが外れる音が鳴り、『ゴゴゴゴゴ』と、両サイドから地響きの音が響きだす。
中に入っていたのは本で……これひょっとして、って、考えるのはあとあと。
本を手に取り、俺は出口に向かって全力疾走する。
「え?」
何もなければ余裕で出口まで行ける。
その筈だった。
だが――
「ぐぇぐぇぐぇ」
「ぐぇぐぇぐぇ」
――通路の途中に、カエルコンビがいた。
「嘘だろ!?」
だからと言って止まる訳にも行かない。
ここで止まったら死ぬ。
突っ込むしかない。
「なんで湧いてるんだよ!!」
「ぐえぇぇぇ!!」
「ぐわっ!?」
赤ガエルを躱しながら走り抜けようとしたら、左の脹脛に噛みつかれてしまう。
その痛みに俺はバランスを崩し、その場で転倒する。
いや、転倒しそうになって、なんとか前に転がる形で受け身を取って立ち上がる。
幸い、転がった拍子に噛みついていたカエルが離れたので、痛みはあるが走れそうだ。
「くそったれが!」
悪態をつき、痛みを堪えながら走る。
「がっ!」
背中を殴られたような衝撃。
今度は青ガエルの水弾を受けた様だ。
が、足は止めない。
痛みに堪え、俺は出口まで走り抜けた。
「はっ、はっ……間に合った」
ギリギリだった。
糞ガエル共め。
何て所で湧きやがんだよ。
振り返ると、隠し通路は左右の壁が閉じて無くなっていた。
ダンジョン地図を確認すると、もう光っていない。
「この隠し通路を示す光は、宝箱をとったから消えたのかねぇ?」
光は隠し通路を示す物で。
宝箱の中身が取られる。
もしくは、トラップが発動して押しつぶさたら表示から消える様だ。
「足は……一応ポーション使っとくか」
カエルに噛みつかれたせいで、血が出ている。
走れていたのでそこまで深刻なダメージではないは思うが、取り合えずポーションで回復させておく。
因みに、ポーションは最下級品でも軽く20万はする。
産出量は結構な量だけど、それに負けないくらい需要がある物だからな。
どうしても値が張ってしまうのだ。
「このダンジョンでの稼ぎは10万もいっていないから完全に赤字だけど、
まあしょうがない。いや、これが手に入ったから赤字って事はないか」
俺は手の中にある本に視線をやる。
これはおそらく――
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。