第118話 友人
「よう、久しぶり」
とある喫茶店。
俺はそこでコーヒーを飲んでいた。
「悪い。少し遅れた」
「気にすんな」
やって来たのは聖の奴だ。
実は俺の方から電話して、今日会う事に。
聖の事が気になってたからさ。
「こうやって顔を合わせるのは3年ぶりぐらいだな」
「そうだね」
聖が席に着き、店員に俺と同じくコーヒーを注文する。
「そっちは大変みたいだな」
「ははは、まあね。まあこれまでが順調すぎたしっぺ返しって所かな」
聖は少し疲れている様に見えたが、暗い様子はない。
空元気ではなさそうだし、少し安心した。
「で?光は何に覚醒したんだ」
聖には、電話した時点で俺が覚醒した事は伝えてある。
「レアクラス。まあ何のクラスかは秘密だ」
「なんだよそれ」
「色々と特殊なクラスでね。あ、因みに……俺もユニークスキル持ちだぜ」
「お、そうなのか。おめでとう」
「ありがとう」
「しかしレアクラスにユニークスキル持ちかぁ。俺と一緒じゃん」
「そうなんだよなぁ。まさか聖如きと同格だなんて、大ショックだぜ」
まあ正確には、俺はノーマルクラスの成り上がりなんだけどな。
「ははは。お互いヒーロークラスにはなれなかったな」
「まあな。でも……今はランクアップポーションがあるだろ。あれさえ手に入れば俺らだってヒーロークラスだぜ」
「手に入れば最高だけどさ。竜崎守の強さを目の当たりにした身としては、とてもじゃないけど、彼に勝って大会で優勝とかのイメージが湧かないよ」
通常のランク報酬に、ランクアップポーションは入っていない。
なので大会の商品となる事は疑いようがなかった。
そして世間一般では、その強力な効果から考えて、大会の優勝賞品になるんではないかと言われている。
ま、たぶんそうなるんだろうな。
あのアイテムが、参加賞みたいな感じで豪快に配られるとは思えないし。
「まあ確かに。あの人、化け物だしな。一回優勝したシーカーは、次からは殿堂入りって感じで大会に出られないとかでもない限りは難しいか」
まあ隠し通路という裏技がある俺だけは、話は変わって来るけど。
「それでも、相当厳しいんじゃないかな。強い人はいっぱいいるからね」
「まあそうだな」
竜崎守が突出してるってだけで、強い奴は他にいくらでもいる。
天魔輪廻にしたって、1対1でも相当強いっぽいし。
だから余程腕に自信がない限り、大会での優勝は現実的とは言えない物だ。
「そういえば、光はどこかのギルドに所属しているのか?」
「いんや。ソロで気楽にやってるぜ」
そう、気楽に変態怪盗してる。
まあ悩みがない訳ではない。
目下の悩みは、怪盗の前に就く変態の称号をどうすれば払拭できるかって所だ。
ほんと、何とかならんかね?
「ソロか……だったら、うちにはいらないか?」
聖が勧誘してくる。
って事はやっぱ……
「なんてね……冗談だよ。沈みかけの船に同船しろとは言わないさ。忘れてくれ」
「キャッスルギルドを抜ける気はないんだな」
「もちろんさ。確かに今は大変な時だ。でも……そう、でもだからこそ一緒に頑張るんだ。これまで苦楽を共にした皆と共に」
聖の立場からしたら、再浮上の目があるかもわからないキャッスルギルドに残るより、さっさと抜けて、ほとぼりが冷めてから他のギルドを探した方が賢い立ち回りだ。
けど、聖はそれを選ばなかった。
「義理堅いんだな」
「知らなかったのかい?」
知ってるさ。
だからお前がギルドに残る可能性があるって、俺も考えてた訳だし。
まあでも、実際にそれを目の前で爽やかな笑顔で宣言されると、なんてお人よし何だこの馬鹿はって気持にはなるけどな。
「まあ、事情があるから俺はキャッスルギルドには入れない」
「残念だ。光が一緒にいてくれたら楽しそうだったんだけどな。あ、そうそう。うちのギルドにさ、光と全く同じ名前の女の子がいるんだ」
「知ってるよ。ダンサーの子だろ」
「はは、知ってたか」
そりゃよーく知ってるよ。
Sランクダンジョンでおもっくそ顔合わせしてるしな。
「ま、光なんて結構ありきたりな名前だからな。同じ名前の人間もそう珍しくないさ」
「まあ名前だけならそうだけど、その子もレアクラスでユニークスキル持ちだからね」
「確かに、そこまで行くと珍しいかもな」
ま、俺は成り上がりのレアクラスだから、実はそれほどでもなかったりするけど。
「ま、なんにせよ……聖はキャッスルギルドで頑張るんだな」
「ああ、見ててくれ。必ずキャッスルギルドを立て直して、日本一のギルドにしてみせるよ」
「頑張れよ。俺も外から手伝ってやるからさ」
「手伝う?」
俺の手伝うって言葉に、聖が不思議そうに首を傾げた。
「ああ。大城恵さんから、仕事を頼まれてるからな。断ろうかと思ってたけど、聖が頑張るなら受ける事にするよ」
「光は恵さんと知り合いなのか」
「まあちょっとした顔見知りだよ」
まあ俺の顔は見せてないので、顔見知りってのは違うかもしれないが。
「そうなのか……それで彼女からはどんな仕事を頼まれてるんだ?」
「ボス戦なんかの、ライブ配信を手伝ってくれないかって言われてるのさ」
今、キャッスルギルドのイメージは死ぬほど悪い。
それを払拭する手の一つとして、リアルタイムでボス討伐なんかを彼女は配信したいようだった。
なのでそのための依頼が、勇気を通して俺に来ていたりする。
必死に頑張る姿を臨場感ありでお届けする事で、視聴者から共感でも引き出そうって魂胆だろう。
効果があるかは……まあ不明だ。
俺はそういうの、完全に素人だからな。
裏目が出ない事を祈るばかりである。
「ボス戦のライブ配信の手伝い?でも、ダンジョン内は電波が届かないけど?」
「ああ。だから俺に依頼をしてきたんだよ。俺には……ダンジョン内に電波を引っ張ってこれるスキルがあるからさ」
「えっ!?そうなのか?そんなスキルが……いや、待てよ。そういえば怪盗も同じようなスキルを……」
俺は神出鬼没で、一瞬にして聖の背後に回る。
そして彼の肩に手を置き――
『俺がその怪盗だ』
―—そう、テレパシーで伝えた。
「——っ!?」
振り返った聖は、俺のその言葉に大きく目を見開く。
出来れば伝えたくはなかったんだけど……
まあ、聖の事を助けるって決めたからな。
正体は明かした方がやりやすいからしょうがない。
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